田舎の婆ちゃん家の話。
婆ちゃんの家は、十字路の交差する部分に隣接して立っていたので、道はすごく見通しが悪かった。
そのせいか事故が多発して、小学生の時婆ちゃん家に住んでたんだけど、その間事故を何回も見た。
俺が見た事故はなぜか毎回、車が婆ちゃん家に突っ込むように当たってくるんだよね。
もの凄い音がして、家が揺れて、驚いて外にでると、ひしゃげた車が塀につっこんでいる。
クラックションが鳴りっぱなしで、うめき声がして、車内を覗くと、血を流して倒れてる人がいる。
そんな事故を見るのはショックだったけど、だんだん慣れてきた。
なにしろ月に一度のペースで起こってたし、死人は一人も出てなかったから。
というのも、道を挟んだ向かいの交差点の隣接地には、お地蔵さんがいた。
何度も事故があるのに死人がでないのは、お地蔵さんのおかげだと婆ちゃんは言っていた。
お婆ちゃんは、よくお地蔵さんの夢を見るらしい。
俺が一緒に住みだしてからは、「お地蔵さんが『孫は良い子だ』と褒めてくれた事もある」といっていた。
幼い俺は、婆ちゃんが言うならそうなんだろうなって信じて、毎日お婆ちゃんの勧めるまま、お地蔵さんを拝んだりしていた。
そのお地蔵さんは赤い頭巾を被ってて、無表情な顔で目を開いてるんだ。
なんか、前にいるとじっと見られてるみたいで、拝んでる時も不思議な気分だった。
それに、真っ赤なしゃくなげの花がいつも備えられているのが印象的で、正直怖いと感じてた。
ある日、あまりにも事故が起こるから、婆ちゃんの家を役所が買いとって壊す事になった。
婆ちゃんも引っ越しに納得して家は壊され、俺は転校し、両親の家に帰って一緒に暮らす事になった。
交差点は凄く見透しが良くなった。
なのに、その後一件だけ事故が起こった、死亡事故が。
犠牲者は俺と同じ年の小学生で、元同級生だった。
だけど、一度も話した事のない子だったので、それほど悲しいと思わなかった。
俺は一応葬式に行き、そのあと親族でお婆ちゃんの家に泊まった。
その時に事故の話題がでて、婆ちゃんは言った。
婆ちゃん:「事故に遭った人はみんな、『小さい子供が飛び出した』っていうから、最初はあんただと思ってひやひやしたよ」
俺:「違うよ」
婆ちゃん:「だよねぇ。事故はいつも、あんたが家の中にいる時にあったもんねぇ」
俺:「そういえばそうだっけ」
婆ちゃん:「そうだよ。だけど、みんな『赤い帽子を被った子供が飛び出した』っていうんだよ。あんたいつも赤い帽子被ってるじゃない」
小学生の時、俺はいつも赤白帽子を赤にして被っていた。
俺:「違うよ。絶対、僕じゃない」
婆ちゃん:「わかってるよ。お前はお地蔵さんも褒めるくらい良い子だからね」
俺:「なんていって褒めてたの?」
婆ちゃん:「良い子だから、友達になりたいっていってたよ」
俺:「友達?」
婆ちゃん:「寂しいから、毎日顔を見せてってさ。毎日お参りさせてただろ?」
俺:「うん」
婆ちゃん:「引っ越しの前の日も、夢に出てきたんだよ。『孫はいなくなるのか?』って寂しそうに聞いてたね」
俺は怖くなって、それ以来お地蔵の前に立っていない。
それから何年かして誰かに、あのお地蔵さんは供養地蔵なのだと聞いた。