『土蔵の狸』
知り合いの話。
彼の実家には古くて立派な蔵があるそうだ。
これは、彼がまだ幼い頃のこと。
夜中、祖母が蔵の横を通り過ぎると、中から人の気配がした。
「誰か中にいる?」と問うたところ、「すいませんっ」と慌てた声が返ってきた。
同時にバタバタッと、何か暴れるような大きな音がする。
取りあえず中を確認しようと扉を見ると、閂も鍵も掛かったままだった。
「泥棒だ!」と動転した祖母は、急いで他の家人を呼び集め、数を頼みに中を確認してみたが、蔵の中には誰もいなかった・・・。
ただ、綺麗に積んであった筈の荷物が、至る所で崩れていたという。
人が隠れられるような場所もなく、出て行けるような箇所もない。
家人たちは口々に不思議だと言い合った。
ただ祖父だけは笑ってこう言った。
祖父:「大方、裏山の狸の類いが悪さしに来てたんだろう。昔はウチまで下りてきちゃあ、騒いでたモンだ」
まだ幼かった知り合いは、「え?あの蔵の中にドラえもんがいたの!?」と叫んだ。
彼にとって狸から連想できるものは、ドラえもんしかなかったらしい。
家族皆に大笑いされたそうだ。
祖母:「アンタのおかげで、怖くなくなったよ」
祖母がそう言って頭を撫でてくれたのが、子供心に嬉しかったそうだ。
『義実家の人々』
元同僚の話。
彼の奥さんの実家は、人の死が見える家族なのだという。
義両親は共にはっきりと、義妹はボンヤリと見えるのだそうだが、なぜか奥さんだけはまったく見えない質らしい。
夫婦で実家に遊びに行くと、「あぁ、君は○○で死ぬだろうから、準備をしておいてくれ」「娘を必要以上に苦労させたくないから、保険とかもきちんとしておいてね」などと反応に困るようなことを言われたそうだ。
奥さんが泣きながら「あの人たちには、本当に人の死に目が見えるの」と訴えた。
「ま、用心しておくさ」と彼は返し、自分が可能な対応をすることにした。
○○から連想される場所に、絶対に近寄らないよう暮らし振りを変えてみる。
その少し後、再び訪れた実家で、今度はこんなことを言われた。
奥さん:「おや、○○で死ななくなったみたいだねぇ」
奥さん:「でもまだ△△かもしれないし」
旦那:「だから今は△△を避けて生活しているんだ。かなり天然入っているけど、義実家の人たちって悪い人じゃないんだよ。見方を変えれば、危険を未然に注意してくれているとも言える訳だし」
ニコニコとそう述べる彼の横で、乾いた笑いを浮かべる奥さんが印象的だった。
彼自身も強烈な天然であるのだが、当の本人はそれに気がついていない様子である。