バカにされそうで怖いから誰にも話したことがない話。
以前、俺は個人で起業してネット関係の仕事をしていた。
当時、2DKの部屋を住居兼仕事場として借りていて、隣に住んでいたのは80過ぎた独居のお婆さんだった。
俺はほとんど一日中部屋に篭もっていて、買い物以外は出かけないので、あまり交流もなく、ポストの前で立ち話をしたり、ちょっと通りすがりに話をする程度の関係だった。
それでも、その会話の内容から、旦那さんは10年ほど前に死亡。
子供は二人いて、上の娘は絵の仕事をしていてバツイチで子供がいない。(一度個展の案内を見せてもらった)
下の息子は一部上場企業に勤めていて、ここに来るまでは同居していたが、仕事の関係で海外へ行くことになった。
嫁と子供はついていったが自分は英語もできないし、海外の生活なんてしたくないので一人暮らしをしている。
海外にいる孫は大学生と高校生の女の子。
亡くなった旦那は大工で、自分はその工務店で定年まで事務の仕事をしていたので、厚生年金もあるから何とか一人でも暮らしていける。
とか、そこら辺の話を聞いた。
一度だけ、その「息子夫婦と子供」を見たことがあるんだけど、息子もその嫁もパリッとした服を着ていて孫も一人は黒尽くめで魔女のようなオノヨーコのような恰好だったが、下の孫娘は可愛いイマドキの子という感じだった。
四人とも俺の顔をみると「いつもお世話になっています」とにっこり笑って頭を下げて、婆ちゃんの家に入っていった上、その後、お土産までくれて金持ってる上に良い人、という印象だった。
ある日、夜、買い物にいくときにふとマンションをみると、婆ちゃんの風呂の窓が曇っていることに気づいた。
うちの自治体は老人の待遇がよく、60歳以上(65歳?)だと銭湯が無料になるという制度があり、婆ちゃんはこの制度を利用しまくっていて「このマンションにきてから、一度も自宅のお風呂をつかっていない」と言っていた。
何でお風呂に入ってるんだろう?と不思議に思った。
雨が続いても傘さして銭湯にいってたし、もしかして足でも悪くしたのか?とその時は思った。
それからしばらくして、部屋から出た時、隣の部屋から見たことも無いごついオッサンが出てきた。
作業服だったので、電気屋か何かだろうかと思っていたら「いつもうちの坊主がうるさくてすみません」と言ってきた。
俺は戸惑って「いや・・全然」と言い、その場から逃げた。
もしかして婆ちゃんが引っ越したのか?でも引っ越し屋の気配なかったよなあ?と不思議に思っていた。
それから数日後に気づいたんだが、婆ちゃんのベランダで毎日のように干していた布団が、そのまま婆ちゃんの部屋のベランダに干されていて、何故か今それをパンパンと叩いているのは
ちょっとふくよかな30代くらいの女性だった。
婆ちゃんの布団はちょっと変わった色のもので、ベランダ側からみると物凄く目立つし、もし婆ちゃんが引っ越すにしても、布団を置いていくか?それを次の人が使うか?と疑問をもった。
数日後、この前の作業服のおじさんとふくよか女性と、さらに小2の男児の三人とすれ違った。
話しかけられたので会話をしたのだが、「以前からここに住んでいた」ようなことを言う。
「お婆さん、いますよね?」と聞くと不思議そうな顔をして「いえ、うちは三人暮らしです、子どもがもう少し大きくなったら子供の部屋が必要なので、もう少し広いところに引っ越したいんですけどねえ」とニコニコ答えられてしまった。
男の子も元気そうに、当時やっていた戦隊モノのマネをしたり「早く帰っておやつ食べようよ!」と騒いでいて何も怪しいところはない至って普通の家族、という感じだった。
あの婆ちゃんがどこに消えたのか?
それとも俺の頭がおかしくなったの?
その後、色々あって他の仕事やりだしたのでその場所を引き払ったけど、未だによくわかっていない。