先輩の話。
岩登りに出かけた時のこと。
途中の峠道に、苔生した小さな地蔵があった。
普段はまったく信心深くない彼が、なぜかその時は拝んでみる気になったのだという。
手を合わせ山行の安全をお願いし、ポケットにあったキャラメルを三個ばかりお供えしてその場所を後にした。
馴染みの岩場で油断があったのかどうか。
彼は岩登りの最中、不覚にも滑落してしまい、結構な距離を落ちてしまった。
激しく頭と身体を打ちつけたのだが、どういうことか痛くも痒くも何ともない。
大怪我をしていても不思議はない状況だったのに。
帰り道、ふと思いついてあの地蔵をもう一度見に行った。
地蔵の頭は、まるで硬い物で殴られたかのように、綺麗に欠けていたという。