大学の先輩の話。
夜の実験室に籠るのってあまり良い気分じゃないんだよね。
その日はどうやら私だけが来ていたようで、朝から夕方まで誰にも会わなかった。
窓の外が薄暗くなった頃だったかな。
後ろの方でドアが開く気配がしたの。
コツ、コツ、コツ・・・。
靴音がして、私と同じように実験しに誰か来たんだなーと思った。
「お疲れさまです」と振り返らずに声をかけたんだけど、返事がない。
その時はまだ変だとは思ってなかったんだけど。
しばらくしてまた、コツ、コツ、コツ・・・と靴音がしたので、さっき来た人が帰るんだなと思った。
振り返ったら、白衣の後ろ姿が見えて、ちょうどドアからその人が出ていく所だった。
それで、一緒に帰ろうと声をかけるためにドアを開けたら、もう誰もいなかったんだよね・・・。
とにかくびっくりして急いで家に帰ったわ。
結局、あの日、私以外に実験室を使った人はいなかったみたい。
後でよくよく考えてみたら、あの靴音もおかしかったんだよね。
実験室に入るのには靴を履きかえないといけないからあんなに響く訳ないし。
あの時間に外部から人が来たとも思えないし・・・。
今は実験する時はカセットテープを大音量でかけることにしたの。
一人で実験するのはまだ怖いんだけどね・・・。