男は焦っていた、時間がない。
「なんで起してくれなかったんだよ~」とぼやきながら走った。
ひとの流れを縫うように・・・。
男は幸せだった。
可愛い息子はまだ2つ、女房はいまだ恋人気分。
久しぶりの休み、今日はお出かけ。
ベビーカーから子供を下ろし歩道橋を上がる。
息子は車が大好きだ、肩車で高い高いがお気に入り。
「気を付けてよ!」
「ほ~ら高いだろ」
男はイライラしていた。
今日はやけに信号につかまる。
煙草を何本すっただろうか、早くこの荷物を降ろして次ぎへ・・。
「チェ、また赤かよ~」
男は歩道橋を駆け上がった、駅はすぐそこ。
足がもつれた。
男は肩車をしながら一瞬気配を感じて振り向いた。
走る男はバランスを保てなかった。
肩が男の腹に当たった。
その瞬間、肩車の男もバランスを失しない手が緩んだ。
悲鳴が上がった。
子供は歩道橋を越えて重力のなるがままにその高さから落下した。
信号待から勢いよく飛び出した車の男は一瞬なにかを見た。
間に合わなかった。
急ブレーキとともに悲鳴が錯綜した。
車の男は目の前が全て真っ暗になった。
免許がなかった。
そして同時に3つの家族が崩壊した。
普通の生活にありえるふつうの話。