幽霊だと思うけど、怖さはなかった

カテゴリー「心霊・幽霊」

「ほんのりと」でいいってことなんで、誰かに聞いてもらいたかった話を投下。
文章の批判でもいいから感想があると嬉しいよ。

ネットの世界でこんなことを言っても仕方ないとは思うが、これから話すのは僕の本当の体験談だ。

僕は今でも、幽霊を信じているか、と言われると首を縦には振れないような科学信者だが、この体験だけはなんとも不思議で、今でも覚えている。

僕が小学生5年か6年の頃。
夏休みに、地元の子供会でキャンプをした。

キャンプ場は隣町の山の中腹にある。
山の麓の、小さな町から道が一本伸びていて、それが1車線になり、車もすれ違えなくなったあたりで、キャンプ場の管理棟の横に行き着く。

普通の車はそこでとまるが、道はさらに山の上に続いていて、山頂から町を見渡せる展望台まで一応舗装された道が続いている。

キャンプ地はその途中にある。
テントを張ったり、火を起こしたり、カレーを作ったりしながら夜になり、キャンプファイヤーをし、就寝の時間になった。

僕と同じテントの年下の女の子が、トイレに行きたいと言ったので、自分もしたかった僕は丁度いいと言ってその子と連れ立って外へ出た。

外では大人たち2、3人が、残り物でバーベキューみたいなことをしながらビールを飲んでいたので、トイレ行ってくる、といって道に出た。

トイレは炊事場の裏手にあり、キャンプ場から10mほど道を下らなくてはならない。
外灯の類はトイレの入口にしかなく暗かったが、月の明りがあったので辺りの様子はよくわかった。

男女別のトイレに入ったが、なんとも怖かったので急いで用を足して外に出た。

女の子はまだ戻ってない。
薄暗い森の中で外灯に照らされているのも怖かった僕は、道の前で待っていると女子トイレに向かって言い、炊事場を通り抜けて、道沿いの石段に座って待つことにした。

道の山頂側では焚き火とガスランタンの光が見え、大人の笑い声も聞こえる。

一方、僕の座っている後ろは屋根だけの、吹きっさらしの炊事場で、昼間カレーをつくったときとは打って変わって明かりもなく、廃墟みたいに静まり返っている。

周りは暗い森。セミが鳴いている。
心細い。

そして、ふと。
道の下手に目をやると、遠くの方で、女の人が向こうを向いて歩いていた。

大きな花の模様が付いた藍色か紫色のような浴衣を着ていて、手に巾着のようなものを下げているのが見えた。

なんだか急いでいるような感じで、肩を揺らして町の方へ向かっている。
その人は見ているあいだに山を下っていって、坂の向こうへ見えなくなった。

夏祭りでもあるのかな?

そう思った。

あとから思い返すと、女の人の見え方は変だった。
外灯のない薄暗い月明かりの中で、その人にはピンスポが当たってるみたいに、色がくっきりと見えた。巾着を持っていることまではっきり分かった。

しかしその時はさして気に止めず、戻ってきた女の子と一緒にキャンプ地に戻った。
戻ってすぐに、大人たちに聞いてみた。

僕:「今日下の町で夏祭りあるの?」
大人:「え、さあ?なんで」

僕:「さっき浴衣の女の人がいたから、巾着持って、紫の・・・・・・」
大人:「んー?なんだろう」

僕:「町の方へ歩いて行ってた」

すると別の大人が言う。

大人:「そりゃあ幽霊じゃないんかな?よく出るっていうけん。ここは」
僕:「そういえばなんか変だったんだよね。見え方が。光ってたっていうか・・・・・・」

そこで僕自身も思い出す。
そもそも、この道の上には何もない。
民家がない。

ということは、その女の子は何もないところから町に向かって歩いていたということになる。
もしくはこの、キャンプ場から。

しかしキャンプ場は田舎の小さなもので、今日は子供会以外の人は使っていない。
さらに、道の上手から来たなら、道の横で宴会をしているこの大人たちが気づかないはずがない。

僕:「人通ったのわからなかった?」
大人:「んん。誰もこらんかったと思う」
大人:「確かに見てないなあ」

大人たちもいよいよ首を傾げている。

大人:「そもそも、君は道の前で待ってたんだろう?その目の前を通り過ぎたんじゃないの?」

あれ、確かに。

思い返すと、女の人の歩く速さ、見えた距離、僕の待っていた時間なんかを考えると、感覚的にだが、炊事場を通り抜けた頃、もしくは石段に座ったあとに、僕の目の前を通過しているはずだ。

背筋が寒くなった。
記憶の中の女の人が、あまりに人間じみていたからだ。

あれが幽霊?

大人:「あ、もしかしたら、下から上がってきて、君をみて引き返したのかな」

背筋の寒気がさらに強くなった。
が、それは小学生の理解力の無さからくる、無意味な寒気だったようだ。

大人:「あー、そげかもしれんわ。祭り行って、そのままこの上の展望台で夜景でも見に来たかもしれん」

よくわかっていない僕が聞く。

僕:「なんでひきかえすの?」
大人:「そりゃあ真っ暗な道の、炊事場の前に、子供が座っちょったけんだわね」

大人たちが笑う。
僕も、ああ、そうか・・・と気づく。
あの女の人は、僕を幽霊と勘違いして、逃げてたんだ。

大人:「彼氏と来とったかもしれんね」
僕:「おとこの人はいなかったけど」

大人:「わからんよ。遅れて来とったかもしれんし、先に逃げたんかもしれん。ひかって見えたのは月明かりの加減だよたぶん」
大人:「でも、ここって結構町から遠いですし、歩いてきますかね」
大人:「管理棟まで車できよったんだわね。たぶんね。今頃このキャンプ場で子供の幽霊が出るって噂になっちょるわ」

また大人たちが笑った。

僕は、なんだあ、と言ってため息をついた。
ホッとしたのと、不思議な体験が水の泡になったのと、混じったため息だった。

次の日。
テントを撤収して、子供たちは父兄の車に分乗してそのキャンプ場をあとにした。
管理棟にテントとかライターなんかを返し、町へおりて、そこから国道に乗って、その町からも出る。

僕は、昨日の大人たち中にいた人の車の、助手席にいた。
その人が何気なく僕に言った。

大人:「昨日のこと覚えてる?夜、女の人見たって」

僕:「うん」

僕は疲れもあって、ぼーっとしており、生返事をしていた。

大人:「管理人さんに聞いてみたんだけどね」
僕:「うん」

大人:「夏祭りはもうちょっと先なんだって」
僕:「ふーん」

大人:「昨日の夜に車が来たのも、気づかなかったってさ」
僕:「うーん」

大人:「だから君が見たのは、本当に幽霊だったかもしれないって、今は思ってるんだよね」
僕:「ふーん」

当時はその生返事で話は終わってしまったが、いま思い返しても不思議な体験だ。
もしも、幽霊というのが実在して、そして僕の見た彼女が幽霊だったとしたら・・・。

あの人は死んでいて、でも何かの思いがあって、浴衣を着て、山を降りていくんだろう。
しかしそれでも、不思議と怖さも悲しさもない。

あの歩いていく背中、揺れている肩は、それを見ただけで「ああ、祭りがあるんだなあ」と思えたほど、本当に楽しそうだったからだ。

最後にもう一度、この話は実話である。

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