友人の話。
里帰りした折に、甥っ子を連れて裏山で遊んでいたという。
時はまだ朝方、霧雨がかかって少しばかり肌寒い。
地山が剥き出しになった崖に立って入れるほどの洞穴が開いていた。
何気なく入ってみると、5、6メートルも進んだ所で行き止まりとなっている。
別に変わったこともないので、すぐに引き返して外に出た。
唖然とした。
見事な夕焼けが視界に飛び込んできたのだ。
慌てて甥の名前を呼んで探したが、どこにも見当たらない。
一目散に家まで帰ってみると、親たちにこっぴどく叱られた。
「小さな子供を放ったらかしにして、今まで何処で道草食ってたんだ?」
甥が言うには、急に彼の姿が見えなくなり、仕方なく一人で家まで帰ったのだと。
事情を説明し、自分にも訳がわからないと主張したが、「言い訳するな!」と一喝された。
危なくその日は晩御飯抜きになるところだったそうだ。
後に村の幼馴染みに聞いたところ、件の山には「トキタガエの穴」と呼ばれる洞穴があるのだと教えられた。
「何でも、その中じゃ時間の進み方がまちまちになるって話だよ。長くなったり短くなったり、効果は決まっていないみたいだけど。最も君が入ったその穴が、本当にトキタガエかどうかはわからないけど」
その後しばらくして再び裏山に登ってみた。
あの時入った筈の洞穴は、どこにも見つけられなかったという。