昔、自分はよく迷子になる子供だった。
ずっと側について見ていても、本当に一瞬、まばたきする間にふっと消えてしまうらしい。
自分ではよくわからないけれど、そんなときにはたいてい知らない場所にいた。
妖精のいる花畑、おばあさんが一人で住んでいる大きな家、白い灯台やら細い路地裏やら。
でも、しばらくすれば家に帰れるから怖くはなかった。
大きくなってから、遠く離れた町で知らない人に「××ちゃん?大きくなったねえ」って言われたときは怖かったけど。
小学生になったころには、これは普通のことじゃないんだとわかった。
でも自分ではどうしようもなくて、あちこちに飛び続けてた。
ある日、学校から帰るときにエレベーターから下りたら(自宅がマンションだった)、そこがその赤い世界だった。
一面べったりした赤と黒。
いつもとは違う光景にどきどきしたけど、すぐに帰れると思って赤い世界の自分の家に入った。
そこにあいつがいた。
走って逃げて、追い付かれてまた走って、気がついたらいつもの家だった。
行ったことのない、子供の足では行けないくらい遠方の、祖母の知人の家に狂乱状態で飛び込んで保護されたらしい。
それから、ふらっと消えてしまう癖は無くなった。
というか全部忘れていた。
友人に、あなたは鍵で扉で力だから私が封印うんぬん言われたときも、はいはい中2乙で済ませてた。
あの赤い世界にはあいつがいる。
あいつは怖い。
もうどこにも行きたくない。
おばけより、幽霊より妖怪よりあいつが怖い。
精神病だと思われてもいい。
怖いものは怖い。
ただ、赤い世界とあいつには気をつけて欲しい。
踏み込んだらいけない。