俺自身は、霊感なんてないと思ってるんだが、妙に感が良いとは言われる。(そのかわり、じゃんけんは激弱だ)
次男で独身だったもんで、仕事でもよく2,3年地方に派遣されたり手薄になったセクションのサポをやらされたり、当時いわゆる便利屋になってたそんなときの話。
ある日、とある資産家の遺産運用の件で、新規担当になった先輩に同行してそのお宅に伺うことになった。
「お前気に入られて資産家の娘Getとかなw」とか、軽口をたたかれながらその家に到着。
たしかに資料によると、若い孫娘が2人同居していることになっていたし、ちょっとは期待したものだが、実際は挨拶とかそんなことあるはずもなく、相続人代表のババアと、会話の内容から経理(?)と思われる苗字の違う中年男性相手に話を進めることになった。
まあ、その家は番地のブロック半分以上占めた敷地の「お屋敷」って感じ木造なんだけど若干洋風テイストまじりの、かなり以前に成功した家系だなと想像させられるもので、俺も当初は、ちょっと雰囲気暗いなぁという感想くらいしか抱かなかった。
商談についてはスムースに進み、先方もかなり気を許した感じの話し方になってきたところで先輩が、「まあ、お孫さんもいいお年頃ですし。なかなかに心配ですよねw」的な話題を振ったらその場の空気が急変。
経理が、目で『その話題振っちゃダメ!』と全力で止めてきた。
慌てて俺が、修繕が必要な場所等の確認をさせていだだくような話にズラし、当面の出費見積もりとかをまとめることになった。
で、その家変なんだよ。
二十歳前後の女性が2人住んでる家にしては、華やかなものやファンシーなものが無くって、強いて言えば古いグランドピアノがあるくらい。
1階見て回る途中で、寝室は2階だなとは分かったけど、何とも生活感が無い趣味の品物とか全く無い。
その家全体が「○○記念館の、誰それの執務室だった部屋」―――みたいな気配なんだ。
先輩も地雷踏んだの気が付いて、神妙にしてるし、俺もとりあえず1階ひと回り終わって、2階のほうを意識した瞬間、「これヤバイわ」って気が付いた。
誰かいる。
俺、ビビリなんで、経理に振り返った顔は多分泣きそうだったんだろう。
ババアとこそこそ話し合った結果、その家の秘密を話してくれることになった。
そこの家系は、一代で財を成した成り上がりだったそうで、その創業者が財産を分散することを恐れたのか、超近親婚やっちゃって、女系は16~18になったところで半数以上が精神に異常をきたしちゃって早死にする。
でも周囲の評判を気にして、入院はさせられない。
2階の部屋は、昔から隔離病棟だったんだ。
そして孫娘が挨拶に出てこなかったのも、現在、その部屋に居るからなんだ。
仕事なんで、2階も廊下までは見たさ。
部屋のドアは廊下側から南京錠かかってるし、中からこっち伺ってる気配は感じるし、窓の木枠には、液体が飛び散ったような黒いシミとか残ってるし(古い血痕だろ、アレ)もう吐きそう。
担当は俺じゃないし、地区も変わって二度とその家には行ってないんだけど、当時相続資料漁ったら、話以上の家系だったんで補足しておく。
一代で成り上がったわけじゃなく、それなりに農地持ってた庄屋の血筋。
創業者とされた人には婚姻履歴が無く、その子らの戸籍の母欄は、創業者実母の15歳年下の妹の名前。
つまり叔母。
今でいう「事実婚」って奴。
しかし、これも怪しい。
その叔母の生まれた年だと、祖母は40超えてる計算になるんだ。
現代ならあり得るけど、昔の人がそこまでやったなんてにわかに信じがたい。
さらにその後の男系は8割離婚歴あり、これは明らかに異常(先輩の話では急にキレる傾向があったらしい)。
女系も30手前でほとんど死んでるし、嫁に出たのも一人出戻ってる。
俺が思うに、創業者の祖父かその親族が、娘を孕ませたんじゃないか?
で、生まれたその女児は妹ってことで処理し、その後娘には婿養子をあてがって創業者が生まれてる。
キズ物だもん、普通嫁には出せないよな。
でも誤算が生じる。
姉弟のように育った、おそらく母が同じ2人が、事実婚で子供を成した。
サラブレッドでもそんなインブリードやんねえよ。(上司には横溝正史かよwとか笑われたけど)
だとすれば、一族の高確率の狂いっぷりにも納得がいく。
創業者の母は、一体どんな気持ちで一生を終えたのだろう?
今でもふとした時にあの廊下を思い出す。