私の体験した話。
高校生の時分。
県大会のキャンプに参加していた時のこと。
夜になって知り合いの他校生が「蛍がいるぞ」と我が校のテントまで報せに来た。
「嘘でしょ、近くに川なんて無いじゃん」
「ホントじゃって」
そんな会話を交わしているうち、ならば確認しに行こうという流れになった。
連れて行かれたのは、大きな石が立っているこぢんまりとした広場だった。
石の表面には何か文字みたいなものが見えたが、磨り減っているのか読み取れない。
碑の類だろうか。
そのすぐ傍に大きな樫の古木が一本だけ生えていた。
確かに、光る点が二つ、石の周りをフワフワと漂っている。
蛍にしてはかなり大きいように思えたが、大きさ以外は特に違和感もない。
「へぇこんな所でも蛍いるんだ」
「大きいね、ゲンジかな?」
皆がそう感心していると、付いてきた先輩がポツリとおかしなことを言う。
「俺には、小さな人型が光りながら飛んでいるように見えるんじゃけど」
しかし、光体がそういう風に見えたのは、その先輩一人だけだった。
「嘘ぉ」
「嘘じゃないって」
そう押し問答していると、どこかの顧問である女性教諭が通り掛かった。
「何を騒いでいるのか。さっさと寝なさい!蛍ぅ?どこにもそんなものいないじゃないの!」
どうやら顧問の目には、光自体が見えていなかったらしい。
私たちは強制的に解散させられ、キャンプ場へ追い立てられた。
「アレは蛍じゃなくて妖精だったんだよ」
「そうだよ、心の汚れちまったオバサンには見ることが出来ないのさ」
道々そんなことを言いながら、鬱憤を晴らした私たちだった。