瑕疵物件その壱。
あぁども、へへへ、こりゃおはようございます。
今日も生憎天気が悪いようで。
いやね、あたし都内で不動産屋営んでまして。
はぁはぁ、親の代からなんですが、へへへ。
こう野暮な天気が続くようじゃ、また増えちゃいます。
いぁいぁ、変死者の数ですよ。
東京じゃ、年に1万人超えてるんですって。
はぁはぁ、あたしと何の関係があるって。
へへへ、それが大ありなんです。
瑕疵物件って、ご存知?
ご存知でない、そうですか、はぁはぁ。
瑕疵物件その弐
様々な理由で、販売や賃貸に支障のある物件のことなんですがね。
判り易く言いますと、死人の出た部屋で、へへへ。
自殺、殺人等、変死絡みの物件はね、あたしどもの悩みの種でして。
以前はね、事実を隠しまして、はぁはぁ。
価格を下げさえすれば、それなりにお客も引けたんですが。
まぁまぁ、後から事実を知ったお客のクレームもね。
知らぬ存ぜぬで罷り通せば、問題無かったんですが、へへへ。
それが、貴方、法律が変わっちゃいまして。
消費者契約法っていうんですが。
瑕疵を隠して契約した物件は、お客がクレームつけた時点で無効になっちまう。
「この部屋には死体がありました」なんてチラシ、撒けますか?
値引きするにも限界ってもんがあるし。
変死者が1万人超える様な東京じゃ、瑕疵物件も増え続けてて。
はぁはぁ、年に数千ってとこですかね。
都内で商売するあたしらには、避けて通れぬ鬼門ですよ。
瑕疵物件って奴は。
瑕疵物件その参
へへへ、でもね、手拱いてる訳じゃありませんよ。
サルベージ業者って、ご存知?
まぁまぁ、簡単に申しますと、引き上げ業者ってことで。
瑕疵物件の「事実不告知の禁止」ってのは、直前の住人までの適応でして。
業者が用意した住人を挟み込むことで、瑕疵の告知が不要になる。
はぁはぁ、ごもっとも、おっしゃる通り。
瑕疵物件に直前の住人として入居しちゃうんです、へへへ。
半年後に引き渡された物件は、もう通常に変わるんで。
告知不要の通常物件に引き上げちゃうてのが、サルベージ業者なんですよ。
瑕疵物件その四
あくまで書類上は、元通りの綺麗な部屋に戻すんですがね。
はぁはぁ、この業界にも与太話の一つや二つ。
ええ、聞きたいですか?へへへ。
うちのサルベージを請負ってるの、仮にAとしますが。
Aんとこ、多忙でね。
都内だけじゃなく、近県からも依頼が多数だそうで。
へへへ、羨ましい限りですけど。
直前の住人ってのは、まぁまぁ、アルバイトで賄ってるんですが。
或る日、Aが依頼のファックスに、請負ったことのある物件を見つけたんですって。
何でも半年前に、サルベージして引き渡したばかりの物件で。
前回とは別の不動産屋からの依頼でね、はぁはぁ。
都内N駅近くの賃貸マンション7XX号室ってとこらしいんですが。
瑕疵物件その伍
早速、Aが不動産屋に電話しましたらね。
数ヶ月前に契約したOLが、部屋で首を吊った様で。
まぁまぁ、珍しいこともあるもんだと、その物件のサルベージを引受けたってんですよ。
それから半年後、Aがまた依頼のファックスに、7XX号室を見つけちまったらしんです。
今度は女子大生、風呂場で手首切っちゃったって。
はぁはぁ、奇妙に思ったAが、この物件の資料を引っ張り出してみるとね。
サルベージ依頼は、Aんとこで3回目になりますが。
それが貴方ね、きっちり半年毎の依頼だってんですよ。
繰り返されちゃってるんだ。
直前の住人として、送り込んだアルバイトも期間中に頻繁に交代してるってんで。
Aも躊躇したらしんですがね、まぁまぁ、引き受けちまったんですよ。
瑕疵物件その六
4度目の依頼があったのも、その半年後。
今度はサラリーマンの突然死、繰り返されちゃってる。
5度目の依頼も、その半年後。
水商売の女が農薬呷っちゃった。
6度目の依頼も、また半年後。
ポン中が腹掻っ捌いたんですよ。
さすがにアルバイトの間でも変な噂が広がっちゃって、誰も行きたがんない。
はぁはぁ、ごもっとも、結局6度目は受けなかったって言ってましたよ。
現在も、Aのとこに定期的にサルベージを繰り返す物件の依頼が、数件あるらしいんです。
「上得意様です」なんて、A笑ってますがね。
あぁ、こりゃ本降りになってきちまいやがった、へへへ。