昔馴染みの話。
山間の実家で暮らしていた頃、彼はよく川で泳いでいたという。
ある夏の日、友人と連れ立って、普段は誰も行かない淵の方へ泳ぎに行った。
楽しく泳ぎ遊んでいる内、友人の一人が奇妙な物を見つけた。
淵の深みに、一抱えもある木箱が沈められていた。
一体何の木で作られているのか非常に重い代物で、皆で苦労しながら引き上げてみた。
鉤を引っかけ止めるだけの単純な蓋。
鍵は掛かっていなかった。
開けてみると、中には胡瓜がぎっしりと詰められていた。
瑞々しくてよく冷えている。
誰かが「もしかするとこれは河童のものじゃないか」と言い出した。
「河童の金庫っていうところか」
「どうせならもっと良い物を入れておいてほしいよな」
そう軽口を叩き合いながら蓋を閉め、元の場所へ沈め直したという。
「何故元に戻したかって?盗っちゃ河童に悪いだろ」
何でもないような調子で彼はそう言った。