彼女が幼い頃、子ども会のキャンプに参加していた時のこと。
夕食の準備をしている皆の頭上に、白い煙が漂っていたそうだ。
彼女の目はそれに釘付けになった。
煙の中に隣家の小父さんの顔が浮かんでいたからだ。
見ているうちに、煙の顔はいろいろと移り変わっていった。
笑っている彼女の母親の顔や、何かしゃべっている知り合いの小母さんの顔。
怒っているような友達の父親の顔に、きょろきょろしている子ども会の会長さん。
どうやら、その場で働いている大人の表情を、一つ一つ真似しているようだった。
やがて煙の顔は、彼女に己の姿が見えていることに気がついたらしい。
見知らぬ男の顔になると、目線を彼女に向けウインクを一つした。
次の瞬間、煙は散り散りになって消えてしまった。
怪しい煙に気がついたのは、彼女一人だけだったそうだ。