事故で意識不明になった後、一年後に意識が回復し、その後一時的にではあるが完全復活した友達が、不思議なことを話してくれた事がある。
意識を失っていた期間の記憶のことだ。
いわゆる現実世界とはまったく異なるが、自分を自分として認識できるまったく別の世界に居たというのだ。
この「異世界」について聞いた話を書こうと思う。
この間、現実世界での刺激や呼び掛けはまったく聞こえず、逆に現実世界と瓜二つな不思議な異世界から抜け出すために、必死に出口を探して彷徨っていたらしいのだ。
例えば、その世界の構造物にはリアルな存在感があり、現実世界と寸分違わない程の絶対的な現実感を持っていたらしい。
明晰夢(めいせきむ)に近い状態だけど、それを遙かに越えるリアリティと言っていた。
本来の自分の居るべき世界とは異なる世界に送り込まれた恐怖は耐え難く、気が狂いそうな毎日を過ごしていたとのこと。
夜と昼があったものの腹は減らず、トイレにも行きたくならない。
体力も消耗せず、睡眠のような途中で意識の途切れることもない世界。
そんな中で、主に夜になると他人の存在感を強く感じることがあり、まるで幽霊のようにぼんやりとした存在と会話ができたことも有るのだとか・・・。
その存在は異世界と現実世界の両方の記憶を持ち、現実世界に戻ると異世界の記憶を失うとの事だった。
彼らは現実世界に戻るための出口を知っており、焦ることもなく探している様子も無かったらしい。
定期的に異世界と現実世界を行き来しているらしく、それが当たり前のように繰り返されているらしいとのことだった。
彼が現実世界に戻ってきたのは、現実世界での刺激が切っ掛けだったようだ。
つまり家族の呼び声と手を握る刺激で、突然吸い込まれるように戻ってきたとのこと。
冒頭でも書いたようにその後、一時的に完全復活したものの、数年後に原因不明の突発的な意識障害を経て、結局亡くなってしまった。
彼の言葉によると「現実の世界と良く似た別世界が平行してあるようだ。意識を失った人はそこに飛ばされ、普通はしばらくすると元の現実世界に戻ることが出来る。しかし、運が悪ければ閉じこめられるのかもしれない」との事だった。
その話を聞いて、もしかしたら人が睡眠を取るとその世界に入り、睡眠から目覚めると現実世界に戻ってくるのではないかと感じた。
その内容を彼に尋ねたら、「そうかもしれないが分からない」とのことだった。
もしかしたら自分もその世界に頻繁に出入りしていて、ただ記憶を失っているだけなのではないかと、ほんのり怖くなってしまった。