それは見るからに古く、木製の大きな三面鏡だった。
部屋が微妙に傾いているのか、「ギギ・・ギ・」と少しずつ開くのだ。
何回か閉めたのだが、すぐに「ギギ・・」と開く。
妙にその音が気になるから全開にしておこう。と言うことで、全開にした。
開いてみると、鏡面の端部が真っ黒なシミが付いていて、かなりの年代物だなぁと感じた。
何となく気味悪いので、とりあえず、バスタオルを被せた。
音も出なくなり、俺たちは間もなく寝入った。
ふと夜中、尿意を催し、目が覚めた。
寝ていた俺には便所がないので本家まで行かなければいけない。
邪魔臭いので朝まで我慢して寝ようとしたが、やはり無理。
「めんどくせーなー、庭ですまそーかなー。」としばらく布団の上でゴロゴロしていた。
庭で済まそうと決意し、部屋を出て玄関の横で小便をした。
月明かりが妙に明るく、澄み切った星空が綺麗だった。
やっぱ田舎っていいなー。
などと思い、そのままそこでタバコを一本吸った。
俺は女にもこの星空を見せてやろうと思い、玄関先から女を起こそうと部屋を覗いた。
女にも見せようなんて考えるんじゃなかった。
玄関から差し込む月明かりで女の寝姿が見えた。
その奥に三面鏡。
中央の面にバスタオルを被せていて、その右の鏡面に俺の姿が写っていた。
逆光で鏡に移る俺の表情は見えないのだが、鏡に映る俺の後ろに誰かがいる。
いや、中年の女がうつむき加減、半笑いの表情で鏡越しに俺を見ていた。
俺は心臓が止まる思いで、振り向く勇気もなかった。
明らかに、この世の物でないと一瞬でわかった。
何故なら、俺自身の姿は逆光で暗く映っているのに、その中年女は逆光、つまり影になっていない。
まるで鏡の中から俺を見ているようだったのだ。
しばらく硬直状態で目線が離せなかったが、しばらくして中年女は半笑いのまま鏡に映る俺の背中越しにスゥーっと消えていった。
俺は慌てて女の足を引っ張り、起こした。
寝呆け眼の女に事情を説明したが、「どーせ私をびびらせたいんやろ!しょーもない事言ってんと早く寝!」とキレられた。
当然、それ以降は寝ることなんて出来なかった。
三面鏡を閉じ、タオルを何枚もつないで紐状にして、三面鏡が開かないように結んだ。
翌朝、優しい婆さんに鏡のことも聞けず、帰ってきました。
今でも、あの中年女の顔が忘れられない。
俺はあの中年女に恋心を抱いてしまった。