もうその話は封印したい

カテゴリー「心霊・幽霊」

奈良県の山中を深夜男三人でドライブしてた時の話。

そこはすごい山奥の中で道も急カーブの連続だった。
俺と後部座席の友達がくだらない話で盛り上がってたら、運転してる奴がいきなり「アッ!」って叫んだ。

大声にビックリさせられて俺と後ろの奴が「ナニ?ナニ?どーした?」って聞くんだけど、そいつは返事もしない。
こっちは訳が分からず、ちょっと怒り気味に「ふざけんなよ、コイツ」とか言って、また後ろの奴としばらく喋ってたら、そいつがまた「アッ・・・!」って言う。
しかも車がつんのめるほどの急停車させて・・・。

「お前・・・なーっ!」って言いながら詰め寄ったんだけど、車内の照明に薄っすら浮かぶそいつの顔を見て動きが止まる。

一目見ただけでマジなのが分かった。

後ろではまだ友達が文句をブツブツ言ってたけど、俺自身はちょっと不安になってき始めていた。

車が停まってみて改めて気づいたんだけど、周りは360度、人気の無い真っ黒な闇の世界で、光どころか物音一つしないのよ。

何があったかを聞き出すまでに少し時間はかかったけど、そいつの言うものを見るためにもう一度車を走らせる事にした。

運転してる奴は何度も引き返そうって言ったけど、俺たち二人の方が力関係が上だった事もあって、車はそいつの意思に反してどんどん先に進んで行った。

結論から先に言うと俺も見た。
後ろの奴も見た。

運転してる奴は、普段はそんなに根性無しじゃないんだけど、もう半泣きだったと思う。
俺も本当は怖かったんだろうけど、見たものを受け入れる間も無いって感じで頭がボーッとしてた。

解説が入るとシラけるんだろうけど、車のヘッドライトって言うまでもなく前方を照らすものだから、カーブに差し掛かると、どうしても道から外れた部分を照らす事になるでしょ?
急カーブを曲がる度に、遠く離れた断崖がライトの先に写し照らされるんだけど、”それ”がそこの居たのよ・・・。

運転してる奴も最初に気づいた時はそれが何かは分からなかったらしい。
でも近づくにつれて、それがぼんやりとした輪郭が何か分かり始めてきたらしい。
見つけてから数度目のカーブを迎えた時に、はっきりとそれが目に映った

白装束を着た女が崖をよじ登る姿が・・・。

そうこうしてるうちに結構近づいてきて、女の姿かたちが短い間だけど俺たちにもはっきりと見えた。
頭に何か差してるようにも見えたけど、何かは分からなかった。
でも神社で見かける巫女さんのような衣装だというのだけは分かった。

道具は持っていないように見えたから、素手で垂直に近い切り立った断崖をよじ登ってるとしか思えなかった。

「幽霊?あれ、幽霊?」

後ろの奴が何度も聞くもんだから、運転してる奴がついに「うるさい!」って怒鳴った。
俺はと言うと背中がゾワゾワするのと、何故か頭の中に子供の頃観た覚えのあるミステリーゾーンの曲が浮かんできて離れない。

もうその現場の真下に着くんじゃないかという手前のカーブに差し掛かった時、ボーッとしてた俺の脳もやっと事の重大さに気づいた。

女がこっちを見てた。

真っ白い顔で無表情のまま微動だにしないで俺たちを見下ろしてた。
ずっと待っていたかのように。

ヘッドライトに反射するのか二つの目が光って見える。
その時に誰が何を言ったとか叫んでたとかは覚えてない。
皆の声が入り乱れてパニックだったし、何か喋ったとしてももう言葉にもなってなかったと思う。

そして残念な事に引き返すにはスピードが出過ぎてた事、(運転してた奴が恐怖のあまりアクセルを踏みっ放しにしたらしい)に加えて、転回するスペースが無かったために、必然的に女の居る崖の真下の場所に向かう羽目になった。

今思い返しても不思議な事に、いよいよという時になると誰も取り乱していないかのように無言のままだった。

冷静になったと言うんじゃなくて、あまりの恐怖に騒ぐ勇気すら無かったと言う方が当たってるかもしれない。

車内は文字通り水を打ったようにシーンと静まり返っていた・・・。
突然、車がエンストするまでは・・・。

おそらく運転してた奴の操作ミスのせいなんだろうけど、再びエンジンがかかるまでが真の恐怖を味わった時間だった。

正直、気が狂ったふりをしようかと考えたくらいビビってた・・・。

今思い出すとそれでどうなるもんでもないのだろうけど、その時は本気でそう思った。
今に女が屋根の上に飛び降りて来て窓からその女の白い顔が現れるんじゃないかと、そればっかりを気にしてた。

エンジンがかかった時は嬉しいよりも先に早く出せという気持ちの方が強くて、運転してる奴に向かって「走れっ!早く走れっ!」みたいな事を怒鳴りまくってたと思う。

猛スピードで現場から走り去る車の中は、街の灯りが見えるまで咳き一つしないくらいの静寂に包まれていたのが記憶に残ってる。

その後、三人は何事も無いまま自然とその話を封印する事にして別々の人生を歩む事になった。
音信不通だけど、たぶん他の二人も今も生きてると思う。

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