僕が当直していた病院の話だ。
僕が研修医の頃、ある老人病院に当直のバイトに行った。
夜起こされる事はまずない病院なので、日頃からの疲れもあり、その日は21時くらいには寝てしまった。
何時頃だったか・・夜中に突然目が覚めた。
すると天井からこちらを見ている男の人がいるではないか!
近視のため、遠くはよく見えないので、はじめは天井の模様か、配管か何かがそう見えているだけだろうと思い、じっとそちらの方を見ていると、その男の人が「にっ」と声を出さずに笑ったのだ。
「これは本物の幽霊だ!!」と気付き、布団をかぶって、「わー、わーっ!!」っと、しばらく大声を上げた。
すぐ隣には事務当直の人が泊まっていたのだが、構わずに叫び続けた。
しばらくすると、気配が消えたのだが、怖くて、布団から出られなかった。
勇気を出して、まずは布団からゆっくりと手を出し、ベッドランプをつけ、部屋を少し明るくした。
そして、ゆっくりと布団を出て、天井を見ると、そこには何もなかった・・・・。
その数日後、また、同じ病院に当直に行くことになった。
今度は寝るときに電気をつけて、テレビをつけっぱなしにして寝た。
すると同じようにまた、夜中に目が覚めた。
天井を見たが、今度は誰もいない。
「良かった・・・」
胸をなでおろし、テレビを見ると、番組が終わって、砂嵐になっていて、テレビからは「シャー」という音が聞こえている。
しかし、よく聞いていると、砂嵐の音に混じって、「フフフフフッ、フフフフフッ」という笑い声とも啜り泣きとも取れるような声が聞こえてくる。
一瞬、背筋がゾッっとしたが、疲れていて、眠いこともあり、「姿が見えないから、まっ、いっか」と翌朝まで眠ってしまった。
それ以来、その病院には当直にはいっていない。
当直を頼まれても、断った。
そして、その事件以来、僕は当直をするときは必ず電気をつけて、テレビをつけて眠るようにしている。