”出る”ならはじめから言って

カテゴリー「心霊・幽霊」

大学時代だからずいぶん昔の話。
友人談。

京都で遊んでいたら終電を逃してしまった。
明日は授業がある。
出ないとヤバい。

タクシー?

学生なんで金なんかあったら飲んじまうだろう?
最も、家にまでたどり着くほどハナっから金なんか持ってないがね。

帰りの切符、無駄にしてしてもうたわ。

おう、しゃあないからそれこそホームレスの真似事でもするか・・・と思いつつ、あてもなくぶらぶら歩いていたら宿があった。
うっすらと玄関に明かりがついてる。

金があればなぁ・・・と、ごそごそとポケットに手を突っ込むと、なんだなけなしのん、あるやんか。
ガラッとあける訳にはいかない気がして、そろそろっとあけた。
おっ、という感じでフロントの爺さんが顔をあげる。
よかった、人がいた。

訳を話してみると、じいさん、「うーーん」と言ったきりしばらく黙り、とりあえずは2階の上がったところの部屋でいいなら、となり、交渉成立。
眠気が勝ってきてるし、ちょっと使ってないとか言っているが、そこそこ綺麗だし、まぁまだ冬には間があるんで布団にくるまればとりあえず寝れるやんか。
明かり取りの窓がちょっとまぶしい気がするが、横になればいいんだよ、うん。

その後、何時かわからんが、なんか急に目が覚めた。
明かり取りの窓から、誰か覗いている。
うおぉ、となって飛び上がる。

もう一度見る。
明かり取りにの窓には誰もいない。
寝ぼけてるんか、もう一回寝よ。

また誰かに起こされた感じがする。
目を開けると、明かり取りから女の顔が見える。

え?

・・・と思った時、すぅーっと顔が降りてきた。

あのな、ほんまに怖い時は何にも声が出んねんぞ。
真顔で言う奴の顔は未だに覚えている。

気が付いたら明け方、フロントをたたき起こして話をしかけるとじいさん、千円札を数枚ひょいとだして「これでお茶でも買うて大阪に帰り」と無表情に言う。

友人は罵詈雑言言いたかったが、けおされてそのまま京都駅に戻り、もうろうとした頭(これは普段と変わらんか)で授業に出て、真横で爆睡しやがった。

なお、もうその宿は取り壊されてない。

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