それは絶対に男だ

カテゴリー「心霊・幽霊」

うちがまだ高校生の時の話だ。
多分夏だったと思う。

お風呂から上がったうちはササッと寝巻きに着替え、台所に行って冷蔵庫を漁ってた。
アイスとかあったかな?と思いながら引き出しになってる冷凍庫を開けた時、名前を呼ばれた。

廊下に続くドアを挟んで隣にある和室には両親と二人の弟が寝ていたから、台所でごそごそやっているうちに気付いた母が声を掛けたんだと思った。
「はぁい」と返事をしてまた冷凍庫を覗き込む。

と、再び名前を呼ばれた。

寝ているであろう兄弟や父を考えて小声で返事をしたから聞こえなかったのかな、と思いもう一度返事をする。

私:「はぁい」

するとまた名前を呼ばれた。

だんだん声が大きくなってきていた。
だから今度はうちも、結構大き目の声で答えた。

私:「はぁい何ー?」

すると和室の襖がススッとあいて、母が顔を覗かせた。

母:「アンタ、さっきから一人で何言うてんの?」

一瞬思考が止まった。

私:「お母さんが呼ぶから、返事してたんやん」

そう言うと母は、「呼んでへんよ?」と。

耳の奥がざわざわした。

「ちょっと、やめてーな怖い。そこ前から言うてるやん」と言って母はそそくさと襖を閉めた。

母の言う、前から言ってると言うのはうちのいる台所のことだ。
当時うちが住んでいたのは三階建ての建物が四棟並んだマンションの一室で、確か小学五年生の頃に越してきたはずだ。

入居した年の夏休みのある昼、うちはクーラーを利かせた和室でうとうとしていた。
うちの部屋にはエアコンが無かったからだ。

ぼんやりした意識の中で、ふと気配を感じた。

理由は分らないが男のように感じた。
どうやら和室の入り口から中を覗き込んでいるらしい。
と、その気配はすーっと遠のいていき、台所の置くの壁へと消えた。

徐々に意識が覚醒し、和室の入り口を見ると襖は閉まったままだった。
その夜、母にその事を告げると、母は知っていたらしい。

うちは自室で寝起きしていたので気付かなかったが、和室で寝起きしていた母は入居したその夜から気配に気付いていたそうだ。

やはり男の気配だと感じたらしい。

台所の一番奥の壁からすぅっと現れて、和室の前まで来て中を覗く。
暫くすると元のように台所の奥へ帰っていく。
その気配に悪意は感じられなかったし、家族の誰にも影響は出ていなかったのであまり気にせず過ごしていた。

そこそこ霊感が強く、またかなりのビビリである母が放っておけるだから問題ないと思っていた。

件の壁はうちのすぐ右隣にある。
冷蔵庫は台所の一番奥に置かれており、それを覗き込むうちもまた台所の奥にいるのは当然だ。

怖さを感じなさ過ぎて例の気配の事を忘れていた。
と言うより、慣れてしまっていたのだろう。

冷凍庫からガリガリくんを一本引っ掴むとうちは足早に自室に戻った。

なんの事は無いと思っていたモノに(ちょっとだけ)怖がらせられたことが少し悔しかった。

知覚過敏の歯ではガリガリくんを齧れないので舐めながら、暫くネットサーフィンをしてその日は寝た。

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