あんな死体は見たことがない

カテゴリー「心霊・幽霊」

最初に言っておくが、これからここに書き記すことはすべて紛れもない事実である。
物書きの端くれとして、これを元にいつかホラーの短編など書いてみたいと思っている。

▼以下、川北の日記
俺がヤツを最初に見たのはもう3日も前のことになる。
その日俺は山下と飲みに行った帰りで、結局マンションに帰ったのは夜中の2時、俗に言う「丑三つ時」だった。

俺の部屋は二階にあるため階段を使わなければならないのだが、その階段の1段目にヤツは座っていたのだ。
うずくまっていた、と言った方が近いかも知れない。

顔は伏せていたのでよくわからなかったが、まだ幼い子供のようだった。
具合でも悪いのかと?思って声を掛けてみたが反応はなく、ヤツはただ無言で俯いていた。
変なガキやな、とは思ったがそれだけだった。
怖いとは思わなかった。

次の日もヤツはそこにいた。
いや、正確に言えばそのまま前の日の位置にはいない。
その日ヤツは階段の2段目に腰掛けていた。

「昨日の子やろ?ここに住んでんの?」

俺は前と同じように問いかけたがやはり答えは返ってこなかった。
しかし、俺はその日初めてヤツの声を聞いた。
ヤツはまるで、じいさんのような低い声で何回も「あと11日」とつぶやいていたのだ。
流石にぞっとして慌てて部屋に戻った。
そして今日もヤツはいた。
もちろん今日は3段目に、だ。
あいつは一体何者なんだろう?

大家に聞いたが、ここの入居者は独身者がほとんどで小さな子供などいないとのことだった。
ではあいつは・・・・?
今日はとうとう5段目まで来た。

今日はヤツを見なかった。
時間が早かったからだろうか?
このまま消えてしまうことを祈る。
ところで、何気なく階段を一歩ずつ段数を数えながら上がっていたら気づいてしまった。
この階段は13段だった。
2段上がったところで「あと11日」・・・。
ヤツは階段の残りの段数を数えていたのだ。
1日ずつ1段1段上っていくごとに・・・。

ヤツは10段まで上ってきた。
もし13段上りきったらヤツはどうするつもりだろう?
怖い・・・。
最近ほとんど眠っていない。

ノックの音がした。
ヤツが叩いているんだ。
開けてたまるか。
とうとうあいつ13段上り切りやがった。

防音材とベニヤ板を買ってきた。
ドアに打ち付ける。
ヤツを中に入れたらどうなるかわからんし、あのノックの音を聞いていると狂いそうになる。

ノックが聞こえる。
ドアノブを回している。
開けるもんか。

ドアを叩く音が大きくなっている。
聞こえる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわ。
▲川北の日記はここまで・・・

川北の初七日が過ぎた今でも、あいつが死んだなんて信じられない。
しかもあんな死に方で・・・・。
死体を発見した警官はこんな風に言っていた。

「あんな死体は見たことがない」

発見されたとき川北は両手首を切っていて、その血のために部屋中が真っ赤になっていたそうだ。
死体自体もかなりすさまじい様子で両耳の耳たぶは切り取られ、鼓膜は針のような物で破られていて、瞼が両方ともナイフのような物で切り裂かれていたらしい。

そしてもっとも奇妙だったのはその表情で、恐怖のような物は一切感じられないまるで幼児のような安らかな笑顔だったと言う。

警察では最初変質者の犯行と見ていたが現場となったあいつの部屋が二階だったこと、部屋のドアと窓が板で厳重に封印してあったことなどから精神錯乱による突発的な自殺と判断したらしい。
俺の元にこのCDRが届いたのは、そんな矢先のことだった。

差出人の名前はなかったが、消印は川北の実家のすぐ近くだったので、あいつの家族が送ってよこしたのかも知れない。
そして中身を見て、俺の推理が当たっていたことを確信した。

こんな気味の悪い物をいつまでも手元に置いておきたくはなかったのだろう・・・。
手記の中に俺の名前が出てきたことから思いついたのかもしれない。

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