私は人生に疲れ自殺の名所に1人でやって来ていた。
それは断崖絶壁で下に激しく波が打ちつける、飛び降りるとまず助からないであろう某名所です。
自分の人生は何処から狂い始めたのか、考えながら断崖から下の海を眺めていました。
近くの電話ボックスには『自殺を考え直そう、まずここに電話を』と番号が書かれていました。
時刻は午後9時17分。
場所が場所だけに私以外、いるはずもなかったが、断崖から海を眺めていた私の背後に人の気配を感じました。
そこには白いワンピースを着た女性が立っていました。
「あなたもですか?」
私は尋ねました。
女性は首を立てに振りました。
「恥ずかしいですが私は不器用で何をしてもうまくいかないのです。仕事を辞めて、ブラブラしてたんですが、とうとうこのような場所に来てしまいました。」
女性は黙って私の話を聞いているようでした。
風が強く吹き、それはまるで私に早く飛び降りろと催促しているように感じました
すると女性は崖の方へ手を差し出しました。
どうぞ、お先に?と私に飛び降りろとアピールしているのか?
私は「それは自分で決めるから、そちらこそ先にどうぞ」とムキになって言ってしまいした。
女性は相変わらず黙ってそこに立っています。
生気はまったく感じられませんでした。
私は女性を無視して自分もこの女から見ると同じように生気は無いのだろうか・・・などといらぬ考えをしていました。
すると背後からコツコツと女性が歩き出す音が聞こえてきました。
私は女性が、とうとう飛び降りるのか思い振り返ると女性は先程と変わらない場所に黙って立っていました。
そのとき気付きました。
私がいる方から右手に白いハイヒールが二つ揃えて置かれていました。
ハイヒールの先は断崖と海。
そして私は、はっと思い当たりました。
私の背後の女性は裸足だった。
ではさっきのコツコツという音は?私はもう一度女性を見ました。
女性は確かに裸足です。
私は混乱していました。
すると女性がハイヒールの置いてある場所に向かって歩き始めました。
私は黙って見ているしかありませんでした。
その瞬間女性は断崖の下の海に身を投げたのです。
私は一瞬呼吸が止まりました。
私は女性が飛び降りた下を条件反射で見ようと覗き込みましたが女性の姿はありません
下では波が激しく断崖に向かって打ちつけています。
すると後ろでまた人の気配がしたのです。
私は振り返りました。
すると飛び降りたはずの女性がまた立っていたのです。
「あんたさっき飛び降りたはずでは?」
女は黙って立っていたが、またハイヒールの置いてある崖沿いに向かって歩き出し、断崖から海に身を投げたのです。
まるで録画したテレビの気になる部分を連続して再生しているような感覚になりました。
私は怖くなりその場から走って逃げてしまいましたが、結局当初の目的だった『自殺』は出来ませんでした。
死ぬ事の怖さや無意味さをあの女性は教えてくれたのかもしれないです。
5年前の夏の体験でした。