廃病院の地下(後編)

カテゴリー「心霊・幽霊」

※このお話は「廃病院の地下(前編)」の続きです。

C:「お前ら俺のこと騙そうとしてない?」

俺:「んなことするわけねえだろ!!冗談じゃねえマジでやべえんだよ!!」

俺があまりにデカい声を出してたせいで、コンビニの店員が「どうしました?」なんて外に出てきた。
店の中で立ち読みとかしてた奴らも、変な目でこっちを見てた。
俺はとにかく「なんでもないから」と店員を追い返し、ジーパンから携帯を取り出して警察に連絡した。

ここまで来てようやくCが、躊躇い無く110を押した俺を見て表情を真剣なものへ変えはじめた。

110番はすぐ繋がった。
電話の向こうでおっさんの声で『はいこちら緊急110番』と返事があったので、俺はまくしたてるようにして「J病院(廃病院)で友達が二人やばいことになった!早くきてくれ!」って言った。

警察:『どこのどこ病院です?』

俺:「JだよJ病院!!×××山とか田んぼが近くにある!」

警察:『あーわかんないわかんない。詳しく住所とか言ってくれる?』

俺:「ざけてんじゃねーぞオイ!!住所なんざわかるわけねぇだろ!!○○村んとこにある病院だっつってんだろ!!」

警察:『ああそう。で、何があったの?事故?喧嘩?』

まるでやる気のない気だるげな返事がマジで頭にきて、怒鳴るようにして「どうせ今言ったってテメー信じねえよ!!いいから怪我してるヤツもいんだ!!さっさと来い!!」

その台詞を言い終えるか言い終えないかのときだった。

ザザザザって携帯にはお決まりの雑音が入って、警察のオッサンが『あ?もしもし?もしもし?』なんて言いはじめた。

俺が何言っても聞こえてないみたいで、向こうの声もブツ切りになって聞こえなくなてきて、

警察:『もしもーし。イタズラですかー?』なんて完全にこっちを馬鹿にして、しばらくしたら電話を切りやがった。

俺はひたすら悪態つきながらもう一度110を押して、耳に携帯当てた。
そしたら今度はコール音じゃなくて、ザザザってあの音が続いて、時々『ブツ・・・・・・ブツッ・・・』なんて音が混じるだけだった。

通話を一旦切ってまた掛けなおしたが、今度は何故か携帯の電源そのものが落ちた。
いま思い返せばあれは、手が震えてたせいで長押ししてしまったのかもしれない。

俺はCに「携帯貸せ!」って奪うようにして、Cの携帯で110をコールした。
ちょうどボタンを押してコールがはじまった頃、またコンビニの店員が「ちょっとちょっと、どうしたんですか」と迷惑そうな顔しながら出てきた。

まぁ実際、俺としてはそれどころじゃなかったけど、向こうにしたら本当に迷惑なヤツだったと思う。
俺はもう店員はほっといて、電話だけに意識を集中させてた。

Cが「いやなんか俺にもよくわかんないんすけど」なんて店員に説明しはじめたのが聞こえてきた。
今度のコールはやけに長くて、中々相手が出なかった。

Cが店員に「いやなんか、ダチがあそこ(病院)行ったんですけど、戻ってこなくて」そんな説明が聞こえたとき、やっと『ツッ』と短い音がして通話状態になった。

相手が何も言わないのに少し疑問は感じたが、俺はまた怒鳴りながら「友達が二人怪我してヤバイから」ってはじまりで、事態を説明しようとしたとき、電話の向こうっていうか、向こうの電話の音?が聞こえた。

『ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ』

はじめソレは何なのかわかんなかったけど、段々その音がデカくなってきて、それが何かハッキリわかって、俺は本当もう「うぃっひぁ」とかワケわからん声だして、火傷したときにやるような動きで携帯を放った。

Cが「オイオイオイオイ!」ってビックリしながら、コンクリの駐車場に落ちた携帯を拾って、怒ろうか事情を聞こうか迷ったような微妙な顔で俺を見た。
俺はもうヤバいくらい震えて、多分顔色も真っ青だったと思う。
店員が心配してくれて、「ちょっと大丈夫ッスか」なんて言いながら俺のほうを見てた。
俺は震えながら、耳にこびり付いて離れないさっきの声を、コメカミをかきむしって忘れようとした。

あれは間違いなくAの・・・病院で最後に聞いたあの叫び声だ。
なんで110からそんな声が聞こえたのか、あれは実際にリアルタイムで聞こえてきたのか、それなら今あの場所では何が起こってるのか?

俺はもう本気でわけがわからなくなって、その場にへたり込んで動けなくなった。
店員が酔っ払いでも見るような、扱いに困ってる目で俺を見てたのを、呆然とした視界に捉えてた。
でも、その内店員が「え?ちょっとそれなんすか?」って言いながら顔を近づけて、「うぅっわ!」なんて奇声をあげた。

店員:「ちょっとやばいっすよそれ!腕んとこ血ィ出てるじゃないっすか!」

俺:「え?」

その時やっと気付いたのだが、どうやら俺が病院を出るときに、窓に残ってたガラス破片で腕を切ってたらしい。
Cもその時になって気付き、「うーわお前大丈夫かよ」と覗き込んできた。

店員が慌てて店に戻り、もう一人のオッサン店員と一緒に緊急箱持ってきて、俺の傷に消毒液かけたり軽く包帯巻いたりしてくれた。
でも包帯の長さが足りなくてすぐに真っ赤になって、そしたらオッサンの店員が売りもの包帯まで使って手当てしてくれた。
その間、俺はほんとぼけっと放心してた。
たまにコンビニに入ってく客とか出てく客が、ちらっとこっちを見て通り過ぎてってた。

C:「それ病院行ったほうがいいんじゃねえの?」

その言葉に俺は心底怖がった。
有り得ない話だけど、救急車に乗っけられたら、あの廃病院に連れてかれるって妄想までしたくらいだった。

俺は「本当にいいから、大丈夫だから」ってガキみたいに断って、少し冷静になった頭で包帯の代金を払おうとしたら、財布がないことに気付いた。
長財布だから尻ポケットに入れてたのだが、どっかで落としてきたらしい。

代わりにCが財布から二千円だしてくれてるのをぼけっと見てると、Cの携帯が当時流行ってたコブクロの桜をくぐもった音で流しはじめた。

Cが携帯を開くと、眉を顰めるってのはああいう顔のことを言うんだろう、そんな顔をして俺のことと携帯画面を見比べて、「もしもし?」と話しはじめた。

店員のオッサンが、包帯の入ってたバーコードついた紙部分と二千円持って店に入って、釣りを持ってきて会話中のCに手渡すと、Cは軽くオッサンに頭を下げながら「ああ、うん。・・・・・・そう」とか言ってる。

オッサンはまだ俺のことを心配してて、「きみ本当大丈夫?」なんて気遣ってくれたけど、俺は気の無い返事しかできなかった。
ただ、段々とCの話してる声に呆れと怒気が混じりはじめて、俺はそっちに意識をむけた。

C:「コンビニ。そう。最初のD(コンビニ)。・・・・・・・・・・・・うん。・・・・・・・・・いるけど、なんかおかしいんだよ。・・・・・・・・・・・・ああ。お前らは?・・・・・・・・・え、まだそこにいんの?」

その最後の台詞に俺はなんだか嫌な予感がして、全身に鳥肌が立ったのを憶えてる。

C:「いやコイツ(俺)がお前達が・・・え?・・・・・・・・・・・・やっぱな、そうだと思ったわ。でもちょっとこれはねえだろ。・・・・・・ああ・・・・・・そう・・・・・・いやもういいけど。・・・・・・・・・・・・いや怪我してるから病院つれてかねーと。・・・・・・・・・・・・いやいねーだろ。・・・・・・・・・電気とおってねえし。・・・・・・・・・はぁ?・・・・・・・・・」

相当うろ覚えだが、そんな調子でCは話し続けてた。

C:「いやもういいってそういうの。・・・・・・・・・・・・いいっつってんだろ。しつけーな・・・・・・・・・・・・だからしつけーよ、お前いい加減にしろや!・・・・・・あ?もしもし?」

はたから見てもかなりイラだった様子で舌打し、Cは乱暴に携帯をしまった。
そして俺を睨むように見た。

C:「オメーらマジいい加減にしろやオイ」

俺:「は・・・・・・?」

C:「Bからかかってきてんだよ、今の電話」

もうこのあたりから、俺は殆ど何も考えられなくなってきてた。
もう何がなんだか本気でわかんなくて、Cはまだ何か言ってた気がしたけど、目がまわってそっからのことは憶えてない。

その後のことは全部Cに聞いた。
俺はゆっくりと寝転がるようにして、その場で失神したらしい。
オッサン店員が救急車呼んでくれて、俺は近くの病院で一晩過ごした。
目が覚めたときは昼過ぎくらいで、腕には点滴刺されてて、すぐ横のパイプイスには俺の母親とばあちゃんが座ってた。

俺の腕の傷は結構深くて、他にも顔の横とかを数本縫った。
他にも足の指を折ってたりして、その日の午後はレントゲンとか検査とかして終わった。
もう一日入院していけと言われたが、俺は本当に嫌だと言って断った。

その日の夜に警察から電話がきて、AとBのことと廃病院でのことを聞かれた。
電話がきた次の日、すぐ俺は言われた警察署に行って、取調室みたいなとこに通されて、制服姿のオッサンに何時間も質問された。

廃病院に行くまでの経緯と、中で起こったことを俺は正直に話したけど、勿論信じてもらえなかった。
それどころか薬物検査を受けさせられて、場合によっては家宅捜索にもなるとか色々言われた。

しばらく同じような問答をうんざりするくらい繰り返した後、俺はずっと気になってたAとBについて聞いてみた。

Bは俺が倒れた次の日の午後、Cの通報で廃病院に向かった警察が見つけた。
俺が行った階段近くの場所より少し奥に進んだ場所で死んでたそうだ。

死因は失血によるショック死ってことになってるって言われた。
詳しくは検死しないと判別がつかないってことらしかった。

Aは見つからなかったらしい。

表向きは行方不明ってことになったけど、俺とAがB殺したんじゃないかって容疑者扱いされてると思う。

俺が無くした財布は病院の地下で、Bの近くに落ちてたそうだ。
一応証拠品だから返却されるのには時間がかかるよと言われたが、俺は捨ててくれと頼んだ。

あの病院は本格的に立ち入り禁止にして、パトカーの巡回コースにもいれられるらしい。
放置されていたAの車も、あらかた警察が調べてから、Aの親が合鍵で乗り帰ったそうだ。

取調べが終わると、警察署の外でCが車で迎えにきてくれていた。
地元ではなく少し遠くのファミレスでCと話をした。

Cは俺と一緒に救急車に乗って病院に行った後すぐ、Cの兄貴の運転でコンビニに停めてあったバイクを取りに行ったらしい。

店の店員は違う人になってたが、一応事情を説明したその後、廃病院に向かおうか迷い、Bと連絡を取ろうとして携帯を確認したらしい。
救急車に乗った時点で電源を切ってた携帯に、三十件以上の不在着信があったそうだ。
全てBから。

この時ようやく、Cもこの一連の出来事の異常性を実感したらしい。
Cも怖くなって携帯の電源を切って家に逃げ帰り、次の日にAとBの家に連絡をとると、まだ二人とも帰っていないという。

本格的にヤバいと感じたCは警察に連絡し、俺の言った話で信憑性の薄い部分だけ切り取って、うまく警察を向かわせたらしい。

Cは言った。
途切れ途切れだったし、言葉を探すように幾つも間があったけど、大体こんな感じだった。

C:「最初にコンビニで電話出たとき、なんかおかしいとは思ったんだよ。なんかひたすらお前のこと聞いてきてさ、『三人で仕組んだイタズラだから、もう済んだからお前と一緒に病院にこいって。』でもお前腕怪我してたからさ、俺が病院連れてかなきゃっつったら、『こっちには医者もいるから』って・・・・・・」

C:「おかしいってそこで思ったけど、まだなんか冗談かと思ったんだよ。俺が『いるわけねー』って言ったら、『いるいるいるいる』って、『いまも手術してるから』って。俺がそういうのもういいって言ったら、『ほんとだから。いるから。いるって、いるって、いるって・・・・・・』・・・・・・ってずっと繰り返しててさ。頭きて怒鳴ったら向こうで切っちまって・・・・・・」

俺はなんて言っていいかわからなかった。
Cはもう一度あの場所であったことを俺からじっくりと聞くと、「わかった」とだけ言ってそれ以上何も言わなかった。

その後も俺は何度か警察署に顔を出した。
親から、大学へは休学届けを出して、残り半月程度だった前期と後期は休むように勧められた。
今ではもう警察に顔を出す事もなくなって、大学も上半期の留年で卒業した。

田舎に帰る気も起きなかったから、そのままアパートに住んで仕事に行ってる。
ただ、四度目か五度目に警察に顔を出したときだった。
警察のオッサンといつものように同じ問答を繰り返した後、オッサンがBのスネの傷のことを言ってきた。

警察:「貴方の証言じゃ傷を見たそうだけど、どんなふうだった?切り傷?擦り傷?」

俺:「本当にパニックだったし、かなり暗かったからよくは・・・・・・でも、骨っぽい白いものを見たのは憶えてます」

警察:「ふぅん・・・・・・」

警察のオッサンは間を置いて手元の書類を改めてまじまじと見る。

警察:「これがちょっと不思議な傷でね。あの場所じゃ転ぼうが何かに引っかけようが、つかない傷なんだよね」

俺:「はぁ・・・・・・」

警察:「本当にキミは、Bくんが転んだときは何も見てないし、知らなかったんだね?」

俺:「ええ」

警察:「ふぅん・・・・・・」

その問答はそれだけで終わった。
ただ、取調べが終わって俺が部屋の外に出たときだった。
ドアを閉める前の隙間からオッサンの呟きが聞こえた。

警察:「まぁ噛みはしねーわな」

本当に思い出したくなかったけど、あの時のBの傷はどんなふうだっただろうか考えてみた。
オッサンのその言葉を聞いてから思いついたことだから、これは俺のその時思いついた妄想の可能性が大きいことを先に言っとく。

Bの傷は、あれは俺が見た子供に噛まれたんじゃないかと。

俺は今でも、俺の携帯にAかBの着信があったらどうしようと考えると、眠れなくなるときがある。

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