ばあちゃんて双子だっけ?

怖いオチがあるわけでもないし、ありがちな話かもしれんけども、小二の頃のガチ体験。

俺の母親の実家ってのは、いわゆる田舎に古くからある豪農の家系ってやつで、まあ地方だからってのもあるけど、敷地も広くて屋敷も大きかったし、蔵なんかもあった。
中学に上がるまでは毎年夏休みになると、十日くらい泊まりに行ったもんだった。

俺みたいな都会から来た青白いガキは、地元の子供達とは打ち解けられなかったんで、もっぱら同い年の従兄弟(母の兄の子)と、2人っきりで遊ぶ毎日だった。
こいつもまあ、金持ちのボンボン扱いwされてたんで、普通に友達いなかったし。
とりあえず家の敷地がめちゃくちゃ広かったんで、その中で遊んでても充分だった。

ある日の午後、俺達は昼間でもいくらか涼しい蔵の中で遊んでいた。
蔵は2階建てなのだが、1階の半分だけが座敷になっていて、1階奥と2階は物置状態。
何をして遊んでたのかも覚えてないが、いつしか床の間の脇にある押入れに入っていた。

そうこうしている内に俺達は、押入れの一番奥の床板が外れる事に気が付く。
外して下を見ると、大人ならちょっと入れなそうな狭い通路みたいになっていた。
まだ体が小さかった俺達は興味に突き動かされ、そこに入ってみる事にした。

通路は3mほどで行き止まりになった。(網が張られていてそこから通れない状態)
向こう側から風を感じたので、おそらく蔵の縁の下辺りに通じているのだろうと思った。

もう戻ろうか・・・と思った時、その通路の床がさらに外れる事に気が付いた。
すぐに床板を外して下を眺めると、今度は思いのほか広い空間がそこに横たわっていた。
持ってきた懐中電灯で照らしてみると、意外にもちゃんとした“部屋”のような感じ。
真っ暗というわけでなく、部屋の隅の方から弱い(外の)明かりが漏れているようだった。
都合が良く、俺達がいる場所のすぐ下に箪笥があったので、足場にして下へ降りてみた。

下に降りて部屋全体を眺め回してみると、そこは6畳くらいの殺風景な部屋だった。
箪笥(足場にした)が1つ、文机のような物が1つ、あとは何枚か座布団が積んであるだけ。
カビとほこりのニオイが結構きつかったが、そんなに汚い場所ではなかった。
意外な場所を発見した俺達は興奮して、部屋のそこかしこを調べて回った。

先ほど感じた“弱い光”は、一方の壁の上方に4つ並んだ小さな“通気孔”だった。
やはり網が貼られていたので奥は見えなかったが、これも縁の下に通じている感じがした。
反対側の壁には小さな襖みたいな戸があり、ここをくぐって部屋の外へ出れた。(↑茶室?とかにあるような、ちゃんと立った状態では出入りができないような襖)

そこを出てみるといきなり細い階段があって、登ってみたが上で塞がれていた。
後で考えると、その階段の先は、蔵奥の物置になってる場所のどこかに通じてそうだった。
仕方ないので俺達は部屋に戻り、今度は箪笥の中とかを物色し始めた。

中身は衣類、食器類、紙で作ったおもちゃ?などがごちゃごちゃに詰め込まれていた。
特に目ぼしい物は発見できなかったので、次は文机の方を調べてみる事になった。

文机は横に2段の引き出しがついていて、上の引き出しには文房具などが入っていた。
下の引き出しは、立て付けが悪いのか最初開かなかったが、無理に引っ張ったら開いた。

中にはノート(というか紙を糸でしばってノート状にした物)が何冊か入っていた。
どうやら日記っぽかったが、小二の俺達には難しい漢字があり、ほとんど読み砕けなかった。
ペラペラとめくっていると、何枚かの写真がはさまっているページがあった。
サイズが一定していない古い白黒写真で、最初の1枚だけが大きいサイズだった。

大きい物は集合写真のようで、立派なヒゲを生やした紋付袴の男と数人の男女が写っていた。
ヒゲの男は見覚えがある。
若いが、仏間に飾ってある写真の人だ。(俺の曽祖父に当たる)
隣は奥さん(曾祖母)らしき女性。前には2人の少女。
他、小作人らしき者が周りを固める。

従兄弟:「この女の子ってさ、ばあちゃんじゃない?」

従兄弟がそう言う前に、俺もそう思っていた。
当時はまだ生きていた俺の祖母。
写真は少女ではあるが、確かに面影はある感じだった。
が、不思議な事が1つ。
写真には、その少女と瓜二つの少女がもう1人写っている。

従兄弟:「ばあちゃんて双子だっけ?」

だが俺達はそんな事より、残りの写真の方に興味が移っていた。

次の写真は、少女が女学生になった頃の物のようだ。
だが、ここでは2人写っていない。
というか、これ以降の写真にもこの女性は写っているのだが、全部1人のみになっていた。
文金高島田の結婚写真、赤ちゃん(おそらく叔父=従兄弟の親父だろう)を抱えた写真。
写真をめくる度に老けて行き、その女性は俺達が知っている祖母の顔に近くなっていった。

特に見る物もなくなってしまった俺達は、その部屋で寝転がって話をしてしばらく過ごした。
“俺達しか知らない部屋”というシチュエーションに魅了されてしまい、全く怖くなかった。
「これからここを秘密基地にしよう」などと子供らしい発想でケリをつけ、部屋を後にした。

その夏、屋敷にいる間、ちょくちょくこの部屋に潜り込んで、遊んだりお菓子を食ったりした。
俺は帰る時まで、いや帰った後もずっと・・・誰にもこの部屋の事を口外しなかった。
子供の意識として、秘密基地というのは“そういうもんだ”と考えていたからだ。

そして1年後の夏、いつものように俺はまたその屋敷にお邪魔する事になる。

従兄弟は(もちろん他の家族もだが)去年と変わらず、喜んで俺の到着を迎えてくれた。
さてこの夏も2人でいろいろ遊びまくろうと、お互いわくわくしていたと思う。

俺:「なぁ、明日はまず“秘密基地”へ行こう」

俺がそう耳打ちした瞬間、顔色が変わる従兄弟。

従兄弟:「そんなのいいよ、カブトムシ採りに行こう」

いきなり従兄弟にフラれ、俺はガッカリした。
が、わざわざ議論する事でもなく、その日は疲れていたのですぐに寝た。

翌日からは俺がいくら誘っても、従兄弟は何かにと理由をつけてはぐらかす状態が続いた。
頭に来た俺はとうとう詰問してしまった。
すると従兄弟はバツが悪そうにこう言った。

従兄弟:「ばあちゃんに・・・あそこには行っちゃダメだって怒られたんだよぅ」

俺はその時、従兄弟が秘密基地の事を他人に口外した件についてのみ腹を立ててしまい、どうして祖母がそんな事を言ったのかについては何も訊ねなかったし、考えもしなかった。

その夏、結局あの部屋を訪れる事はなかった。(というかそれ以降も行った事はない)
1度だけこっそり忍び込もうと思ったが、押入れに大きな箱が入っていて中に入れなかった。
が、子供だったせいもあって・・・そんな事は俺の記憶から次第に薄れていってしまった。

中三の春、祖母が死んだ。
その葬式の時、なぜか急にあの部屋での出来事を思い出した。
従兄弟はすごく落ち込んで聞き辛かったので、代わりに俺の母(祖母の実娘)に訊ねてみた。

俺:「ばあちゃんってさ、双子だった?」

もちろん、あの部屋で見た写真について聞いたつもりだ。
母は全くそんな話聞いた事がないようで、何言ってんのアンタ的な表情しか見せなかった。
叔父にも他の親族達にも訊ねてみたが、反応はやはり似たような物だった。

誰に聞いても、祖母は“1人娘で婿取り”という存在で通っている。
だが俺は信じられなかった。
成長してわかった事だが、あの部屋はおそらく“座敷牢”的な部屋だったのだろうと思う。
写真にあった、若かりし頃の祖母に瓜二つの少女・・・。
あの部屋にいたのは彼女ではないのか?
確かに、戦後にそんな三文小説のような、非人道的な事があったとは考えにくいのだが・・・。

大人になるにつれ、あの家にも足が遠のき、従兄弟ともいくらか疎遠になってしまっている。
もちろん座敷牢云々は俺の想像でしかない話だが、確かに“あの部屋”はあったはずだ。
たった1度だけ訪れたというわけではない。
小二の夏、2人で何度あの部屋に入った事か。
それなのに、従兄弟は今ではこう言う。

従兄弟:「子供の時の事だし、全然覚えてないんだよな~」

さらには、翌年の夏に俺が部屋について詰問した事すら覚えてないという。
彼の記憶は、“あの部屋に関する事”だけ綺麗に消えている(もしくはそう見せたい?)のだ。

いまだに俺は何かモヤモヤした物を感じているのだが、どうにもこれ以上聞き出せない。
そしてすでに蔵は取り壊され、あの部屋や写真の女性についての真相を探る術もなくなった。
6歳の時にコタツで寝てたら、のどを詰まらせ息が出来なくなった。
声も出せず手で床を叩いたけど、母親は洗い物をしてて気づかない。

そのまま意識を失って、気づくと家の前のブドウ畑の上にいる。
そのうち風船みたいにすうっと上に行き、家から離れていくので、なんだか悲しくなって泣き出した。

すると「坊やどうした」と、横から2、30代の男の感じがする、透明な塊に呼ばれた。
「家に帰れない」というと、その塊は「おじさんが連れて行ってやる」という。

気づくとコタツの中。
体に帰ってきたのか確かめようと、目の前にある幼児向けの本を手にとってみる。
鉛筆で文字をいくつか書いていると、母親が「文字が書けてる」と、泣いて喜んでいる。
実はこの日が、自分という記憶の始まりの日。

それまで大切にしていた宝物の場所、友達の名前、大好きだった先生が急に分からなくなったので、
ちょっと怖かったらしい(母親談)。

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