死ぬ価値すらねえよ

カテゴリー「不思議体験」

実家が被災地にある。
あの大津波のとき、地元では避難のサイレンが鳴った。
うちの母親が猫を探したが見つからない。
ぎりぎりまで探したようなんだが、家の中にはいなかった。
外に出ていたらしい。
うちの2階にある二段ベッドの上段まで波が来たみたいから、外にいたとしたら絶望的らしい。

その夜、実家はプロパンガスによる火災で全焼した。
地震津波による二次災害。
本格的に猫は死んだと思う。

俺は被災地にいなかったので、両親の安否も二、三日確認できなかった。
被災地は、報道もなかなか入れないような瓦礫の山ばかりだった。
自衛隊の撮った航空写真や、無線が故障、連絡手段無しという報道を聞いて、「もう駄目だ」とか「ぼっちになる」とか、ネガティブなことしか考えられなくて泣いていた。
夜ベッドに入っても、なかなか泣くばかりで眠れない。
でも、うとうとと浅い眠りにつくことくらいはできた。

寝ているときも、眠る直前に考えていることが反映されるらしい。
そのときは実家のことしか考えていなかった。
両親、弟達、祖父母、飼い猫のこと。
浅い眠りで現実か夢かわからない。
夢うつつで家族のことを思い出していた。
夢から醒めれば「あれ?みんなは?」と寝ぼけた頭で家族を探し、「あ、津波・・・」とまた現実に戻される。
その度に泣いた。

その日も目が覚めて、現実にがっかりしてベッドで泣いていたんだ。
俺も再テストなんざ無視して帰省しとけばよかった。
みんなと一緒がいい。
家族が死んでたら俺も死のうと考えたところで、ガリッと右手に痛みと痒みを感じた。
右手を見てみると、引っかいたようなミミズ腫れと傷がある。
猫が引っかいたような傷だった。
しかも、かなり血が出ていた。

うちの猫は、人の手を引っかいたり噛んだりするのが大好きな凶暴猫だ。
うちは猫馬鹿家族だったから、かわいいかわいいって言うだけでしつけなかったんだけどな。
でも、血が出る程強く引っかいたりはしない。
しっぽを引っ張って遊んでマジ切れされたとき、一度血が出るくらい引っかかれたけれど。
「ああ、あいつが怒ってるんだな・・」って思った。

死のうなんて考えたから怒ってるのかもしれない。
普通ならどっかに引っかけたとか、別の思考になるんだろうけど、そのときは、猫が怒ってるという考えしか思い浮かばなかった。
”てめえ何ひとりで不幸ぶってんだ、死ぬ価値すらねえよ”って言われた気がした。

その日の夜はよく眠れた。
熟睡して夢も見ていない。
だが、夢すら見ていないのに、何故か胸の上に温かい重みのある何かが乗っていた、という記憶はある。
もしかしたら、あいつが俺を心配して見張っていたのかもしれない。

俺はその後なんかふっ切れた。
免許持ってる友達に土下座してガソリンスタンドはしごして、スーパーで物資調達までしてもらった挙げ句、被災地に送ってもらった。
我ながら図々しいが、家族のためならなんでもやってやろうと思った。
友達も理解してくれて、みんな協力的に支援してくれた。

今はどうにか家族の安否は確認できた。
家族とは避難所で会えた。
だが猫だけはどうも見つからない。
実家や周辺の空襲に遭った後のような焼け野原で、友人とかなり探したんだけど・・・。
せめて骨だけでも見つけてやりたいが、瓦礫の山にはまだ人間だって埋もれている状態だから、あまり期待できない。

とりあえずあいつの写メ見て泣くことにする。

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