ヴォイニッチ手稿とは、暗号とおぼしき未知の文字で記され、多数の彩色挿し絵が付いた230ページほどの古文書。
暗号が解読できないので、何語で書かれているのか、内容が何なのか不明である。
また、多数の挿し絵も本文とは無関係であるとの説もある。
作成時期は14世紀から16世紀頃と考えられている。
2011年にアリゾナ大学で行われた放射性炭素年代測定により、使用されている羊皮紙は1404年から1438年に作られたと判明した。
だが執筆時期はさらに後年の可能性がある。
手稿の名称は発見者であるポーランド系アメリカ人の古書商、ウィルフリッド・ヴォイニッチにちなむ。
彼は1912年に、イタリア・ローマ近郊のモンドラゴーネ寺院で同書を発見した。
現在はイェール大学付属バイネキー稀書手稿ライブラリが所蔵する。
手稿には、記号システムが確認されている特殊な人工文字によって何かの詳細な説明らしき文章が多数並んでおり、ページの上部や左右にはかなり緻密な、植物や花の彩色画が描かれている。
植物の絵が多いが、それ以外にも、銀河や星雲に見える絵や、精子のように見える絵、複雑な給水配管のような絵、プールや浴槽に浸かった女性の絵などの不可解な挿し絵が多数描かれている。
暗号が解読できないため、挿し絵の分析から内容を推測する試みもなされたが、成功していない。
描かれている植物の絵などは、実在する植物の精緻なスケッチのようにも見えるが、詳細に調べても、描かれているような植物は実在せず、何のためにこれほど詳細な架空の植物の挿し絵が入っているのか理由は定かでない。
挿し絵のなかに、浴槽に浸った女性の絵があり、この絵についてレヴィトフは、中世南フランスで12世紀から13世紀ごろ栄えた、キリスト教の異端教派とされるカタリ派の「臨終(または宗教的な自殺)」の儀式のさまを現していると主張した。
手稿全体も、カタリ派の教義書か関連文書であると主張したが、仮説にすぎず、反論もある。
また描かれた女性は全裸であり、このことから服飾に基く執筆当時の時代判定も困難である。
暗号文を言語学の統計的手法で解析した結果では、本文はでたらめな文字列ではなく、自然言語か人工言語のように確かな意味を持つ文章列であると判断されたが、解読されていない。