知り合いの話。
彼は青年団でご来光参拝の手伝いをしている。
近くの山に登り、頂上から初日の出を拝むという行事だが、日が昇るまで甘酒を振る舞ったり、大絵馬を用意したりするのが仕事だという。
その年、彼は集合時間に遅れてしまい、後から一人で登る羽目になった。
頂上の駐車スペースは一杯だろうし、登っても三十分くらいの道程だ。
そう考えて、暗闇を一人歩いて登ることにした。
もうすぐ頂上、身体もほどよく温まってきた辺りで、不意に気配が湧いた。
暗くてよくわからないが、すぐ横の茂み中を何か大きな影が並んで歩いている。
猪か!?
一瞬動揺したが、努めて足音を大きくし、そちらに目を向けないようにして黙々と歩く。
影はそれ以上のことは何もしなかった。
ただ、影の立てる足音がかなり小さいことを奇妙に思ったらしい。
設置した投光器の明りが目に入って来る頃、影はふっと気配を消したという。
翌朝、撤収を終えて下山する時に改めて気がついた。
あの茂みは小木がひどく密集していて、とても大きな動物が歩けるような状態ではなかった。