知り合いの話。
子供の頃、実家の山でおかしな物を見たという。
棚田の側で遊んでいると、目の前の畦道で何かのたうっていた。
大きくて太目の蛇だった。
青大将だろうか。
逃れようと必死でもがくが、奮闘空しくズルズルと田の中に引き込まれていく。
何が蛇を襲っているんだろうと、移動して正面から覗き込んでみた。
稲が作る列の間に、大きな頭が見えた。
蛙だ。
しかし生半可な大きさではない。
パクッパクッと口を開け閉めする度、確実に蛇体を呑み込んでいく。
あっという間に蛇を腹に納めると、蛙は泥の中に沈んだ。
思わず落ちていた棒で辺りの泥を探ったが、何も手当たりがない。
あれだけの巨体、見逃す筈はないのに。
夕食時、お祖父さんに見たことを話すと次のように教えてくれた。
「儂らはタオヤジって呼んどるな。言わばあそこの主みたいなモンだよ。うん?いンや、神様ってほどありがたいモンでもないな。まぁ精々がモッケ(妖怪)ってところかの。」
それからも度々そこに行ったが、再びタオヤジを見ることはなかったそうだ。