数年前の九月の事でした。
当時、大学のゼミ合宿でとある県のある山荘に泊っていたのです。
合宿と言っても、ゼミの人数は片手で数えるほどしかいなく、非常に寂しいものでした。
山荘の周りには結構廃墟とかもあって、夕食後にこっそり行ってみないかと高校時代からの付き合いのある友人に誘われましたが、私は合宿中毎晩激しい睡魔に襲われ、日付の変わらないうちに寝てしまっていました。
そんなこんなで最終日。
総括のような事をだらだらと教授が語り、昼前に解散。
駅までは送るがそのあとは自由ということになりました。
そこで私は友人にちょっとした寄り道の提案をされたのです。
寄り道と言っても、内容は帰りの沿線にある私たち共通の趣味に関するお店に行ってみようということでした。
連日の誘いを断られて友人も良い気がしなかっただろうし、私個人としても大学生の夏休み的なイベントを今さらながら期待したのもあって承諾することに。
とはいえ、普段からしてるような事でもあるし、私の希望とは少々かけ離れていたのですが、知らない土地、知らないお店や街並みというのは妙な新鮮さを与えてくれます。
帰宅中の寄り道にして初めて旅してるなぁという感覚を堪能していました。
お目当ての店まで最寄駅から直進で2キロ。
夕立のようなものがあったようで、強烈な湿気と暑さに二人ともかなり苦戦を強いられましたが、道に迷うことはなく到着。
適当に店で涼み、冷やかした後、少し元気になったからと言って調子に乗り、品揃えの文句なんかを言いつつも店を出ました。
そして元来た道を辿って駅に向かい歩き出した所まではよかったのですが・・・1キロほど帰って来た辺りでしょうか、友人が突然、「裏道から行こう」などと言い出したのです。
その時は涼しい店内での回復も虚しく、二人の疲労は限界に近く、一緒に歩いているのに口数も減り、ほとんど無言で歩いているような状態の中で突然の提案でした。
正直面倒だとは思いましたが、ここで否定してあれこれ文句を言うのもわずらわしいほどのやる気のなさだった私は、大人しく提案にしたがって歩きだしました。
直進していた大通りのわきを少し入っただけだったし、道なりに進んでいけばなんとかなるだろうと安直に考えていたのが間違いだったのです。
何度か角を曲がり、それでも確実に駅に近付いているだろうという確信のもと、すっかり日も落ちた住宅街を歩いていた時です。
そこに出ました。
T字路・・・?
いや、十字路?
目を凝らせば、そこはどこにでもあるような十字路でした。
異様なのは、交差した先が全くの暗闇で、「黒」が壁のように存在していた事です。
街灯の明かりをものともせず存在するそれを前に、ただ立ちすくむしかなかった私をよそに、友人は何のためらいもなくまっすぐ「黒」に向かって歩き出しました。
必死でした。
20歳過ぎの大学生の男が半泣きになりながら友人の腕にすがりつくのです。
今では思い出すたび、その友人とどうやって縁を切ろうか考えてしまうほどです。
しかしあの時はそうするしかなかった。
恐怖なのか何なのか、一体何にたとえていいのかもわからない感覚が私を襲っていました。
ただ一つハッキリしていたのは、私も友人もその先に行ってはいけないということだけ。
なんとか踏みとどまってくれた友人にドン引きされながらも十字路を右折。
小走りでその場を離れ、途中見つけた公園で一休みして、その後は足をダマしダマし歩いてなんとか駅に着きました。
その間大した会話もせず、電車に乗り込んでから先ほどの事をたずねても、「写メ撮りたいからもう一回さっきの顔やってくんね?」としか話してくれず、十字路の先へ歩いて行った時のことはほとんど無意識だったようでハッキリとはわかりませんでした。
後日、某ストリートビューで例の場所を見てみた結果。
十字路の先を10mほど進むと行き止まりで、左側にはドブとお墓があったということがわかりました。
ちなみに、これは関係するかわからないのですが、ちょうどのその日が彼岸の入りの日だった。
以上です。
当時はともかく、ふと思い出してほんのり怖くなるので書き込んでみました。