もう10年ほど前の事だが、長期の出張である離島にいた。
「何もあんな僻地に...」って同情してくれる先輩もいたが、オレは釣りが好きなんで、まさに願ったり叶ったりの人事だった。
たまの連休も実家には戻らず、釣り三昧の毎日、まさに天国。
で、ある新月の晩、いつものように夜釣りに出かけた。
良い潮なんだが、馴染みのポイントには他に釣り人がいない。
仕掛けを放り込んで懐中電灯を消したら、それこそ真っ暗。
曇り空だからか星も見えず、本当に真っ暗なんだよ。
あ~、これくらい暗くて静かならチンの良型来るんじゃね?
なんて思いながら缶ビール飲んでたら、眼が慣れてきたのか、眼の前の海にうっすらと緑色の光の筋が見えてきた。
光の筋はオレの前から真っ直ぐ、次第に深く沖へ伸びている。
最初はそれが何だかわからなかったが、しばらくして気付いた。
光の筋はオレの投げ込んだ釣り糸に沿って伸びている?
そこら中に海蛍がいて釣り糸にぶつかった奴が光ってるのか?
でも、そんな沢山の海蛍が海岸近くにいるなんてことがあるのか?
ボンヤリ考えてたら、いきなり竿先の鈴が鳴った。
当たりだ!
チンか?
・・・と慌てて竿を取ってアワセをくれる。
そしたら光の筋が今までより強い光を放って大きく揺れてるんだ。
ああ、やっぱり海蛍。
頭の隅で納得しながらリールを巻く。
重い手応えとともに、ゆっくり魚が近づいてくる。
だがチンにしては少し引きが鈍い。
時折底につっこむが横走りもしない。
何だこりゃ?
もしかしてウツボか?
少しガッカリしていたら海の中に緑色の光の塊が見えてきた。
それは体をくねらせながら近寄ってきて、緑色に光る魚の姿になった。
「ハタだ!」
何て言ったらいいのか、図鑑とかに星座の絵があるだろ?
あんな風に緑色の小さな光の点がハタの形になって光ってるんだ。
ハタの大きさがどれくらいか、どんなふうに泳いでるか、はっきり見える、真っ暗な海の中で。
しかもそれはハタが近づくにつれていっそうはっきりくっきり見えてくる。
ハタを水面から抜き上げる直前には、ヒレやウロコまで見えていたような気がするくらい。
釣り上げてみるとやっぱりハタ(50cm弱)だったんだが、海水にぬれた仕掛けも、釣り上げたハタも、光ってなかった。
ハタを〆てから次の仕掛けを投げこんだが、光の筋はもう見えない。
ついでに朝まで魚は釣れず、小さな当たりすら全くない。
あれは、たぶん海蛍。
とてつもない数の海蛍・・・だったと思うが、あんな経験はあの時1回だけなんだよね。
今思い出しても何とも言えない光景。
闇に浮かんで緑色に光る魚。
つまんないかも知れないが、オレには今でも凄く不思議な経験だ。