ある登山家の話
登山中、別のグループと出会った。
そのうちの一人は土気色をして、別の仲間に背負われていたそうだ。
『病気か。しかし、背負う仲間もずいぶん辛いだろうな』
そう思ったが何もしてやれず、「お先に」とグループを追い越した。
直後、後ろで悲鳴が聞こえた!
「落ちた!」
誰かが叫んでいた。
なんてこった!・・・。
彼が引き返すと、遥か下方に、四肢があらぬ方向に曲がった小さな人影が見えた。
辺りを見回すと、先ほどの二人がいない。
『足を滑らしたか。気の毒に。』
彼がその人に声をかけ、話を聞いたところ、妙なことが判明した。
滑落したのは一名だった。
具合の悪い者など、誰もいなかったという。