彼とは気が合うわけではなかったが、なぜか一緒に山へ行く機会が多かった。
互いに、何となく付き合いづらい奴だと思いながら、俺は彼の技術に何度も助けられ、彼は俺の身軽さに引っ張られて山をうろついていた。
同じテントの中、ほとんど黙り込んでいた。
沈黙が心地良い相手ではなかったが、無理に会話しても、かえって気詰まりになる。
おそらく、一番実のある会話は、「明日は何時起き?」「4時くらいでいいべ」そんなところだ。
いつの間にか彼と俺は、同じような時期に、同じような怪我をするようになった。
彼が泥酔して階段で転倒し、右足首を捻挫すれば、俺は俺で沢歩きの最中に転落し、右足首を捻挫した。
彼が山で落石を左目に喰らい、視力を低下させた頃、俺の左目の視界は、少しだけ白く霞むようになった。
眼科で診察を受けたが異常は見つからず、原因は不明だった。
彼がバイクで転倒し、両手に火傷のような怪我を負った翌日、山へ行っていた俺は、ザイルによる荷揚げの最中にザイルが滑り、その摩擦で掌に火傷を負った。
やがて彼は、仕事中の事故で死んだ。
産業用機械の保守作業中に機械に巻き込まれ、即死だった。
その日、俺は山で地滑りに遭い、危うく避け、無傷だった。
俺の右足首は、捻挫の後で太くなり、動きが悪くなった。
左目の視界は、今でも少し霞んでいる。