知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
彼:「随分と奥方の、山岳地帯を巡っていた時なんですけどね。変わった山村がありました。直接訪れてはいないのですが、住人皆が身体の何処かに、同じ紋様の刺青を入れてるらしいんですよ」
彼:「そこの人たち、他の村の人間からえらく嫌われていまして。いや嫌われるというよりも、あれははっきりと怖れられていましたね。私がそこの村民を目撃したのは、ある山裾の市場でだったのですが、どの人も腫れ物を扱うような感じで接していました」
彼:「その時の案内人に、『どんな人たちなのですか?』、と尋ねてみたんですよ。するともう真っ青な顔をしましてね。『絶対に彼らと関わってはいけない』と言う。あの刺青に咬まれたら、あっという間に身体が腐って死んでしまう・・・って」
彼:「昔は結構トラブルがあったみたいで、その度に諍いが合ったらしいのですが、その中で明らかになったというのですよ。あの刺青者に咬まれると、その夜から熱が出て、手足の先から壊死が始まり、三日と持たず死んでしまうってことが」
彼:「何となく、症状の説明を聞いた感じでは、溶連菌によるモノじゃないかとも思ったんですが。はい、俗に言う人食いバクテリアって類いですね。しかし、そんなに劇症性の菌が、人の口腔内に潜んでいるものなのかどうか、私は専門外なのでよくわからないのですけど」
彼:「現在は争うこともなく、それなりに共存しているそうで。やはり平和が一番ですよねぇ」
最後に彼は、日本人らしいこんな一言を漏らした。