父の話を一つ。
正直文章にすると位置関係とかややこしくて分かりにくい話なのですが、すごく気持ち悪い話だったので。
小学低学年の頃、父はアパートに住んでたそう。
遊ぶの大好きな父は暗くなるまで遊び通していました。
その中でも割とよく遊んでいたA君の家は、父が住むアパートの隣の一軒家でした。
そんなA君の家にまつわるお話。
ある日父が夕方家に帰ろうとしていたときのこと。
遊び場からアパートに帰るには、お隣のA君の家の前を通る位置関係になっていて、その日もいつもの通りに父は一人でA君の家を通り過ぎようとしました。
何の気なしにA君の家に目を向けると、A君の家の玄関が開いています。
その家はお世辞にも綺麗とは言い難く、どちらかというとゴミ屋敷の部類。
普段目にすることのないA君の家の玄関が見えたので、興味本位で通り過ぎる間、玄関の方をじっと見ていたそうです。
ここでA君の家の玄関の構造を説明しときます。
扉は引き戸になっていて、平均的な玄関スペースがあり、まっすぐ廊下が続いています。
玄関スペースと廊下には大きめの段差があるタイプでした。
上手く説明できないのですが、小さな椅子に座ったのと同じくらいの段差があり、靴の脱ぎ履きがしやすい構造になっています。
そして段差の下にはおそらく奥行にして20㎝くらいのスペースがあったらしいです。
話を元に戻します。
父は何気なく、そして少しの興味でA君の家の前を通り過ぎながら玄関を見ていました。
ぎょっとしたそうです。
半分くらい開いた引き戸の隙間から見える玄関スペース。
先ほど説明した、段差の下のスペースに、A君のお母さんの顔が顎を下にして挟まっていました。
父が知る限り、そこに人ひとりが入れるスペースはありません。
でもA君のお母さんはそこに挟まっています。
そして何を言うでもなく、無表情で、じっと父を目で追っている・・・。
父もまた何も言わず(正しくは言えず)、目を逸らすこともできないまま、足早にAの家を通り過ぎて、アパートに戻ったそうです。
話自体はこれだけで、その後父の枕元にA君のお母さんの幽霊が出た、ということも何もなかったそうです。
でも父が最後に「なんでA君のおばさん(お母さん)やってんやろうなぁ。だってな、A君のおばさん、死んだわけでもないし、その後なんかあった訳でもないねん。別に何も変わったことなかったのに。せやから余計気味悪くてなぁ」と言っていて、最高に気持ち悪いお話でした。