目には見えない何かが妨げる

カテゴリー「不思議体験」

とある友人に聞いた話。

友人:「亡くなった父の遺品の整理が、全然進まなかったの」

ある時彼女が私に言った。
彼女の父親が亡くなったのは五、六年も前だったので、片付ける気があるのなら確かに進捗は遅い。
いつも、片付けようとはするのだという。
気持ちだけではなく、家族で予定を合わせ計画を立て、業者に依頼したこともあった。
それなのに、その度に邪魔が入り、作業が遅々として進まない。

私:「邪魔って、どんな?」
友人:「色々だけど。家族がそろってインフルエンザとか、母が足を怪我したとか。アルバムを眺めて一日が終わったり、大きな荷物を処分するはずが台風が来たり。思い切って遺品整理の業者を頼んだら、予定日の一週間前に倒産だなんて、そんなことある?」

私:「普通はないかも」

鼻息荒い友人に私はそう応えた。

友人:「実はね、理由があったみたい」
私:「理由?作業が進まないことの?」

友人:「そう」

友人によればつい先日も、父親の遺品整理の作業に母親と共に取り掛かったという。

その時は、今までの遅々とした作業が嘘のように、何もかもが順調に進んだ。

本棚の本を整理していた時だ。
一枚の封筒が本の隙間から滑り落ちた。
友人は何気なく中身を確認し、息を飲んだ。
そこには、まるで浮気の証拠のお手本のようなツーショットがあったのだ。
誰とも知れない若いの女性と、壮年の男性。
男性はもちろん、父親だった。

『なぁに、これ』

そう言ってヒョイと写真をつまみあげた母親に、友人は戦慄した。
母親は、ひどいヤキモチ焼きな性格だったのだ。
父の生前、あらぬ疑いでよく父を問い詰めていた。

しかし、この写真はどう見ても疑いでは済まない。
てっきり眦を上げて喚き散らすかと思ったが、母親はしばらく写真を眺めた後、大きく鼻を鳴らした。

『もう死んでから何年も経って、今更怒るのもバカバカしいわ。ようやくテンポよく片付き始めたんだから、こんなことで足止めされないわよ』

そう言いながら、写真を細かくビリビリに引き裂いて、ゴミ箱に押し込んだという。

友人:「それを見た時ね、父はこの言葉を待っていたのかと思ったの。ほとぼりが冷めるというか、浮気への怒りより、片付かない苛立ちが勝るのを待ってたのよ。だから遺品整理が進まないよう、邪魔してたんだと思うわ」

その後も片付けは順調に進み、残すものは後わずかだという。

友人:「何もかも捨てそうな勢いの母が、少し怖いけどね」

友人はそう言って笑った。

実は私にも、そんな経験がある。
見聞きし集めた不思議な話を文章に起こすのは面白い作業なのだが、中にはなかなかそれが進まないものがあるのだ。

私はいつも頭の中で文章を考え、パソコンに向かってあとはキーを叩くだけの状態にしている。
こうしていると、調子が良ければ五分もせずに一つの話が完成する。
にもかかわらず、中には全く筆が進まない話がある。
考えていた文章を忘れてしまったり、書いているうちに脱線してやり直したり、なぜかやる気が起きなかったり・・・。

理由はいろいろなのだが、とにかく一つの話としてきちんと完成しないのだ。

そんな時は、「今はダメということか」と自らを納得させ、少し時間を置くようにしている。
「少し」の期間はまちまちで、一ヶ月で再開、完成することもあれば、一年以上経ってもまだダメなこともある。

話の内容が、特に因縁めいていたりおどろおどろしいわけではない。
それが不思議だった。

こうして、タイトルや概要だけを書いた中途半端なメモが、パソコンにいくつも眠っている。

理由もわからず物事がなかなかうまく進まない時は、目には見えない何かがその妨げになっているのかもしれない。

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