実は死ぬことを望んでいた

カテゴリー「不思議体験」

自分は大学受験に失敗して頭がおかしくなっていた時期があった。

受験に失敗した後、どうしても現実に目を向けることが出来なくて、ずっと家に篭ってネットをするだけの生活だった。
ご飯とトイレに行くとき以外は、部屋の中にいた。

こんな生活を長く続けているとさ、部屋から出ることが出来なくなるんだよ。
部屋の外にいる人に見られるだけで、恐怖を感じる。
こいつは人間のカスだ、って思っている気がする。

外でいきいきと過ごしている人間を見るのが耐えられなかった。
そして、ずるずるとこの生活が半年も続いてしまった。

でも、このままだとダメなことも自分で理解していた。
変えなければいけないと思っていた。

だから、深夜に2時間くらい散歩することにした。
せめて深夜だけでも外にでて、体を外の世界に慣らそうと考えたんだ。

深夜になると、特にルートを決めるわけでもなく、ただ何も考えずに歩いた。

夜の道は自分の知っている道とは少し違っていた。
むかしから慣れ親しんだ道とは別のものみたいに感じた。
田舎だったから、深夜に人に会うことはない。人間がいるかいないかでは、こんなに変わるものか。

これは人間が歩く道ではない。
昼間とは違った意味で、自分が外から拒否されているような感じだ。
でも、むしろこの感覚が気持ちよかった。

それから、慣れてくると時間をかけて散歩をするようになった。
小学生の頃に遊んだ池や、中学生の時の登校路、肝試しをした神社。
思いつく限りの道を歩いた。

そして、近所には自分が知らない道が意外と沢山あることを知った。

知らない道を見つけることは、楽しくもあった。
だから、そんな道を進んで歩くことにした。

あるとき、散歩の途中で森の中に続く小さな道を見つけた。
アスファルトで舗装されているわけでもなく、草が生い茂っていて、獣道のような道だ。

その道を歩きたくなった。
森の中の道は歩いたことが無い。
恐怖はなく、好奇心でいっぱいだった。

しばらく森の中の道を歩くと、木製の鳥居がたっていた。
いまどき木でできた鳥居があるんだな~と感心した。

鳥居の前には立て札が立っていて、かすれてよく見えなかったけど「~~龍神社」と書かれていた。

その先には放置されてぼろぼろになった神社があった。
はやる気持ちを抑えることが出来ない。

実はその時期、なんとかして死にたかったんだ。
でも自殺は嫌だった。

だから、ネットで呪われる話を探しては、それに似た行動をとった。
幽霊を本気で信じようとしていて、それらに呪い殺されることを望んでいた。

本当は死ぬために道を歩いていた。
夜の世界の何かに、自分を罰して欲しかった。
取り殺して欲しかった。

今、目の前に神社がある。
この森の神はきっと自分を罰してくれるだろう。
殺してくれるだろう。
足は自然と神社に向かっていた。

きっとこの戸の向こうには神がいるはずだ。
そいつはどうすれば怒ってくれるだろうか。

社の中に入れば怒るだろうか。
ははは。
社の戸は錠前がかかっているけど、戸自体が腐っていた。
戸を蹴り壊して中に入った。

「死ね!殺せ!ああああああああああああああああああああああああああああああ」

自分でも良く分からない言葉を発した。
とりあえず何かを挑発した。
声が虚しくとんでいく。

社の中にあるのはただの空間だった。
神も仏も祀られていない。

怪奇が何も起こらない!
話が違うだろ!どうして何も起こらない!

そうだ、祠だ。
祠を壊せば怒るだろう。
社の外に出て、祠を探した。

祠は社の裏側に立っていたらしかった。
でも、誰も管理していなかったので、自然と自壊してつぶれていた。

自分を罰する神はいなかった。

「クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ここには何も無い。

何も無いんだ。

一気に力が抜けた。
なんだか眠い。
もういいか。

気づくと朝になっていた。
晴れやかな気持ちだ。
もう死ぬ必要もないか。
明るくなった道を帰った。

それから勉強して、第一志望ではなかったけど大学に受かることができた。
そして、今では立派な社会人だ。

なんだか最近変な夢を見る。
夢の中では、自分があの祠の裏側に注連縄が架かった穴をみつける。
そして穴の中で歩き続ける。
ずっと、ずっと、ずっと。

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