あの日以来、あいつとは会えなくなった

カテゴリー「不思議体験」

小学校低学年頃のことだから、随所の記憶は曖昧だが。

季節は秋。
放課後校庭でサッカーをしていた。

子供の無限の体力と涼しい気候で時間を忘れてボールを追いかけ夢中で遊んでいた。

「おい、お前らっ!いつまで遊んでるんだ!何年何組の誰だ!?」

2階にある職員室の窓からから、すぐに怒鳴ることで有名な高学年の担任が声を荒げた。

そこでやっと俺らは、周りが薄暗くなっていることに気づき、怒られることにビビって急いでグラウンドを後にした。

まぁ、田舎のガキはサッカーくらいしかやることもないので、みんなはそれぞれ帰路に着いた。

俺は帰る方向が同じ、いつものメンツ3人と帰った。
それぞれA、B、Cとでもしよう。

時刻はまだ16時くらい。
遊び足りない俺らはクラスのリーダー格でヤンチャなAの提案で、「探検」と冠して普段と違う道を通って帰ることに。

10歳にも満たない子供にとって、薄暗くて「探検」と冠して道を通るのは、まさに冒険。
この町にはシンボルとも言える山が町の中央に鎮座していた。

その山のそばを歩いていたら、中腹ほどに大きな建物を発見した。
電気も点いてなく、異様な空気を醸していた。

俺「ねぇ、あそこにあんな家あったんだね」
B「家にしてはデカすぎじゃん」

俺「んじゃ何だよ、アレ」
A「ちょっと見に行こうぜ!」

C「えぇ・・・・・・明日にしよう?」

ノリノリの俺ら3人で真面目なCを無理やり連れて獣道を進んだ。

意外とすぐに建物まで到達。
近くまで来ると3階建の建物だと分かった。

確かに家にしては大きく、奥行きのある建物だ。
周りをグルグル見回り、窓が割れていたり、雑草が伸びきっていたりと長年使われていないことが分かった。

B「ここ開いてるぞ」

窓が開いていることを発見。

A「誰もいないみたいだから、中に入ってみようぜ」

もちろんCは反対した。門限を過ぎるのと勝手に建物に入ることはダメだと、必死に俺らを説いた。

そんなの俺たち3人は聞く耳を持たず、A俺Bの順番で中へと入った。
最後に仲間はずれにされたくないCが半ベソで入ってきた。どうやら男子トイレの窓だったようだ。

B「学校みたいだな」
A「なんかの会社かな?」

トイレを出ると長い廊下が伸びていた。
途中に部屋がいくつもあったが特に何もなく、薄暗くカビの臭いだけが印象に残っている。

2階に上がるも、1階と同様に特に何もないからっぽな部屋だけが何部屋かあっただけ。

A「なんだ、つまんねーな」
俺「3階にはなんかあるかな?」

C「明日明るい時に来た方がおもしろいって!」

そんなCの早く帰りたい雰囲気を無視して3階へ。
長い廊下の両脇にある部屋をひとつずつ開けていった。

終盤に差し掛かった時に、ひと部屋だけドアの色が他と違い青っぽいトビラを見つけた。
それまでの部屋は鍵が掛かってなく、ドアノブを回せば開いたが、そこはなぜか開かない。
なにか秘密がある気がした。

体の大きなBが体当たりをしてドアを破る。
一発で開いた。

中へと入ってみると部屋の奥に机と椅子だけがポツンとおいてあり、机上と周辺に紙が散らばっていた。

その紙にはよく分からない英語や落書きが書いてあった。

B「おい、C!英語習ってるんだろ?読んでよ」

と言いながら椅子に座った瞬間、

ゴーーーーーーン、ゴーーーーーーン

鐘のような野太い音が部屋に響いた。

A「なんだよこの音?なんか押したのか?」
B「え?座っただけだぞ!」

ゴーーーーーーン、ゴーーーーーーン

音は止まらない。

一目散にCが部屋から飛び出し、続けてAと俺が部屋から出て階段へと向かった。

A「おい、Bが来てないぞ!」
俺「あいつなにしてんだよ!」

2階まで降りたが、Aと俺は来た道を戻った。

C「早く逃げようよ!警察くるよ!」

パニックになりながらも、Cを置いてさっきの部屋に戻った。
すると部屋の中央にBが倒れていた。
目を見開きよだれを垂らし、ガタガタ震えながら、なにか呟いている。

A「おいB!大丈夫か!?」

激しく揺すっても起きない。
この時は鐘のような音は止まっていた。

しょうがないのでAと2人でBをかついで建物を出ることにした。
Bの両腕をかついで急いで階段のほうへと向かった。
すると、階段のほうからCがゆっくり歩いて来た。

俺「おい、C手伝ってく・・・」

その言葉を言い切る前に気づいた。

あれはCじゃない。むしろ人じゃない。
人型の影をした”何か”だ。
その”何か”はゆっくりとこちらに向かってくる。ボヤけてはっきり分からないが、大人くらいの高さはあったと思う。

急いで先ほどの部屋に戻ろうとしたが、戻るのは危ないと感じ、向かいの部屋に逃げ込んだ。

Bの口を押さえ、俺とAは震えながら身を潜めた。
呼吸さえも忘れて神経をドアの向こう側に集中させた。

気配は一切なかったが、なぜか俺とAは”何か”が過ぎ去ったことを確信し、アイコンタクトをとった。

ゆっくりと静かにAがドアを開けた瞬間、

ゴーーーーーーン、ゴーーーーーーン

・・・目が覚めたら病院だった。
体が重く、隣にいた母親は泣いていた。

話を聞くと、Cが俺たちの様子を見に戻ったところ、青い扉の部屋に3人が倒れていたそうだ。

Cは急いで親を呼びに帰り、親と建物に戻ったら俺たち3人はなぜか建物の玄関前に移動して倒れていたそうだ。

俺は検査の結果、異常がなかったので、その日の内に退院した。
一応翌日の学校は休めと言われた。

怒られると思ったが何も言われなかったのが余計に怖かった。
Cの親はどっかの会社の社長らしく、警察沙汰にはしたくなかったようなので、病院にはうまいこと言っていたようだ。

2日後、学校へ行くと、BとCは休みでAが大人しく教室にいた。
お互いに先日のことは触れてはいけない気がして、その日はAと話をしなかった。

それから1週間くらい経って、担任からCは親の都合で学期の途中だが急に転校することなったと帰りの会で伝えられた。

あの日以来会えなかった。

Bは病院に入院しているらしく、どこの病院かも教えてもらえなかった。
Aとはあの日のことはお互いになかったことにし、普通に学校生活を送り、クラス替えで疎遠になり、Aは別の中学へと進学。

今はもう何しているか分からない。
小学校卒業くらいにその建物は取り壊されていた。

これは20年くらい前の話で、親と飲んでるときに恐る恐る聞いてみたら、親も建物の詳細は知らず。

ただBは、あの日から1ヶ月後くらいに県外の大きな病院に入院したとのことは噂があったらしい。

特にオチもなく、盛り上がりに欠けるが子供の頃にあった俺の人生唯一の怖い体験。

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