千人塚

明治生まれだった祖母は、10年ほど前にこの世を去りました。
その祖母の父親、つまり僕の曽祖父にあたる人の話です。

彼は一時期、珊瑚漁の船頭をしていたそうです。
ある時長崎の五島列島のあたりにに漁をしに行ったのですが、そこで猛烈な嵐に遭遇しました。
当時は気象観測も発達しておらず、台風で沈む船が後を絶ちませんでした。

沖合いで錨を下ろし風雨に耐えていたのですが、夜も更けた頃、もう限界だということになりました。
そこで、船頭が波を見極め、一番大きな波が来た時に錨を切断して海岸に乗り上げる作戦を立てたのです。

「今だっ!!!!」

曽祖父が合図を出した瞬間に錨綱が切られ、船はあっという間に海岸に乗り上げました。
漁師たちが歓喜したのは言うまでもありません。
とりあえず嵐が収まるまで待っていようということで、皆はそのまま船で待機していました。

そうしている間にも、船の残骸や溺れ死んだ人たちの死体が打ち上げられています。
その時、一人の漁師が叫びました。

「おい、あそこに生きてる人がいるぞ」

指差す方を見ると、子供を背負った女の人がこちらに向かって泳いでいます。
船上の漁師たちは、声を張り上げて「頑張れ、頑張れ」と応援したそうです。

しかし、その女の人は、岸まであと少しの所までは来るのですが、返す波に呑まれてなかなか辿り着けません。
何度もそれを繰り返したあと、とうとう彼女の姿は見えなくなりました。

もう少しだったのに・・・と残念がる漁師たちの目に、ある物が飛び込んできました。
それは、岸に向かって近づいては遠ざかる、大小ふたつの人魂だったそうです。

後で判ったのですが、打ち上げられた死者は1000人を超えていました。
今でも、曽祖父が乗り上げた五島列島のある島には、千人塚があるということです。

あまり怖くはないですが、祖母や父から聞いた話です。

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