いいところに行こうね

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

小学校にまだ行かないころの記憶。

母親が「いいところに行こうね」と言って、自分の手を引いて家の外に出た。
どこか楽しいところに連れて行ってもらえるんだと思って、嬉しくなって一緒に歩いた。

しばらく歩いた後、母親は踏み切りのところで立ち止まって動かなくなった。
電車が来ているわけでもないのに、なんで踏み切りを渡らないのか不思議だったけど、自分も黙って一緒に立っていた。

その内に遮断機が降りて、電車がやってきた。
そうしたら母親が、ものすごく強く自分の手を握り締めた。
電車が通り過ぎて遮断機が上がっても、まだ母親は歩き出さなかった。

何回も電車が通り過ぎて、そのたびにぎゅーっと握られた手の感触の記憶が残っている。
今も人と手をつなぐのが嫌いだ。

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