卒業式にも来なかった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

中学時代、遠くの県から引っ越してきた同級生Aがいた。

俺はAとあまり交流は無かったのだが、Aが医者を目指していて、県内一の進学校もしくは他県のもっとレベルの高い学校への進学を希望している・・・ということは知っていた。

ただ、田舎の、正直学力が高いとは言えない中学だったから、それを実現するためには相当の努力が必要だった。
いつ頃だったかは記憶が定かではないが、受験前、志望校について担任とAが話してる場に遭遇したことがある。
ちょうど話終え、担任がAに諦めるなと言って肩をぽんと叩いているところだった。

それからAは何かに取り憑かれたように勉強を続け、県内一の進学校に合格した。
当時はその学校への合格者が数年前に一人出たきりだったため、学校中がお祭り騒ぎになった。

担任を始め何人ものクラスメイトが祝福の言葉を口にする中、Aの表情は晴れなかった。
そして突然、Aが乱暴に机を殴り立ち上がった。

A:「皆して散々人をバカにして、笑いながら諦めろって言っておいて、ふざけるな!」

わけがわからなかった。
皆、Aの事を応援していて、誰も諦めろなんて言っていなかったのに。
半ば半狂乱になりながら暴れるAをどうにか制止し、よくよく話を聞いているうちに担任気がついた。

方言の所為だと。

地域が特定されそうだが、俺の地元では「?するなよ」を「?しなよ」と言う。
極力他県から来たAと話す時は皆、標準語を使うようこころがけていたのだが、これを方言だと理解している奴は少なかった。

普通、会話してるうちに気づきそうなものだが、Aはおそらく偶然にもその言い回しをされずにいたんだろう。
で、誤解したまま、自分に諦めろと言った皆を見返す為に、それだけの為に猛勉強をしたとの事だった。

誰も諦めろなんて言ってなかった。
それを知った瞬間、Aは力なくその場にへたり込んだ。
これ以上重苦しい空気に耐えきれなくなったのか、誰かが「そんな事で誤解してたのだったら、もっと早く打ち明けてくれたらよかったのに」と笑いながら言って、他の皆も自分達の言葉って変だったんだ、誤解させてごめんと、なるべく明るく振舞っていた。
だが、それが火に油を注いでしまったんだろう。
Aはそのまま教室を飛び出した。

そして、その日から学校を休み、卒業式にも来なかった。
成人式にも、その後何回か行われた同窓会にも姿を見せなかった。

Aの話題はタブーのようになってしまい、その後Aがどうなってしまったのか、誰にも聞けないまま今に至る。

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