そいつは嘘をついた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

俺が中2の時、同級生に「前さん」と呼ばれていた男子がいました。
前さんはシャイな子でしたが、運動神経が良く腕力も強かったので、うちの中学ではケンカの強い子・目立つ子達の中の一人でした。

そんな前さんは俺と同じ陸上部に所属していて、短距離・砲丸を専門にしていました。

で、これは中2の春季大会の時に前さんが砲丸で大会出場が決まった時からの話です。

普段から余り冗談やオフザケをするタイプでは無かったんですが、選手に選ばれてから、前さんは普段より口数が減っていきました。
そんな前さんを見て俺達は、「大会に初めて出るので緊張しているのだろ」と話をしていたんですが、日に日に様子が変になっていきました。

口数が減り、一人で居ることが多くなり、笑わなくなり、話しかけても返事もしなく、話かけているこちらさえ見えていないような感じでした。

大会の前日には、ずっと無表情で一日中床を見詰めていました。

俺達は「前さんヤバイよ。明日は絶対大会に来ないだろ」と話をしていたんです。
しかし大会当日、前さんは会場に現れましたが、前さんは全く使い物にならない状態でした。

無表情・無気力・無反応。
体調がイイのか悪いのかも答えず、試合に出る気があるのかすら答えませんでした。

陸上の試合では、事前に「コール」という点呼があります。
この「コール」に遅れると試合に出れません。
そして前さんのコールの時間が迫って来ました。

前さんは朝会場に来た時から、同じ場所に座り、同じ無表情で微動だにせず、ただずっと一点を見続けていました。

取り合えず俺達は前さんの手を引っ張りコール場に連れて行き、名前を呼ばれても返事をしない前さんの代返をし、なんとかコールを乗り切りました。
そして、試合直前になってもまだ無表情で一点を見詰めている前さんの服を脱がせ、ユニホームに着替えさせて試合に出場させましたが、自分の番になっても砲丸すら持とうとしない前さんは失格となりました。

翌日、前さんは学校に来ませんでした。

しかし、大会の翌々日、「前さんに突然殴られた」と言う子が続発する事件が起こりました。
現場を目撃した子に話を聞くと、前さんは大きなボクシングのグローブを手に嵌め、笑いながら登校中の同級生、後輩、先輩、男子、女子の区別なく殴り歩いていたそうです。
それからです。
前さんの奇行の数々が始まったのは。

ある時は、下校中通学路でいきなり大声で奇声を発し皆の注目を集めた前さんは、乗っていたチャリごと通学路脇の田んぼに飛び込みました。
田んぼには田植えの為に水が張ってたのですがお構いなしです。
チャリに乗って田んぼを何往復もし、高笑いと共に前さんは帰って行きました。

またある時は、女子トイレに潜り込み、個室のドアの下の隙間から用を足している女子を覗いていたそうです。
コレを見つけた女子が女性教師に報告しトイレから連れ出されていました。
連れ出された前さんは反省どころか、あらぬ方向を見詰めニヤニヤ笑っていました。
見かねた女性教師が「しっかりしろ」と前さんの横っ面を叩きましたが、効果なくニヤニヤ笑い続けていました。

横っ面を叩かれながろも笑い続ける前さんを見て俺達は「もう前さん駄目だぁ」と話をしていた時に、友達Aが「前さん、猿の霊に獲り付かれてるんだよ。俺、昨日の放課後に誰も居ない教室で『ウキッキッ』って言いながら机の上を飛び回ってるの見たんだ」と言いました。

その話を聞いた俺達は流石にそれは無いだろうと思いましたが、Aが「本当だって。放課後に前さん見張ってみろよ。マジで獲りつかれてるよ」と真剣に言うので友達数人で前さんを見張ることにしました。

しかしその日の放課後、前さんは居なくなりました。
下駄箱に靴は在るので校舎内に居るのは間違いない筈ですが、幾ら探しても見つかりません。
日も暮れて来て諦めて帰ろうかと話していた時、前さん発見の一報が入りました。
前さんが発見された教室に急行し、ドアから中を覗くと日の暮れかかった薄暗い教室の中で、机の上を「ウッキッキ」と奇声を上げている前さんが居ました。

机の上を飛び回り、黒板にぶら下がり、壁にドロップキックをブチかまし、「ウッキッキキ」と奇声を上げる前さん。
俺達は恐怖のあまり走ってその場を離れました。

翌日から前さんは学校に来なくなりました。
自宅にも誰もいなくなり、転校したとか病院に入れられたとか、死んだとか噂が流れました。

中学を卒業し、前さんの事も忘れていた高2の時、あの現場を一緒に見た友達Bに再会しました。
Bはつい最近、前さんに似た子を地元の駅で見たそうです。
最初は人違いかと思ったそうですが、よく似ていたので思い切って少し離れた所から「前さん!」と呼んだそうです。

すると、その子は振り向いたのでBは前さんと確信して話しかけたそうです。

B:「前さん!久しぶり。今どこいるの?」
しかし、その子は「誰ですか?」と聞いてきたそうです。

Bは「俺だよ!Bだよ。中学の時一緒だったじゃん」と答えたのですが、その子は「知らないですけど。」と惚けるので、Bも「○○中のBだよ。もー惚けんなよ」と食い下がると「○○中?そんな学校知らないです。僕、この駅来たのも初めてですから会った事無いとおもいますけど」と怯えながらその子は答えたそうです。

Bは「でも前さんって言ったら振り向いたじゃん」と聞くと「振り向いてませんけど」と頑なに惚けたそうです。

Bが訳が分からなくになってるところに電車がホームに入って来たので、電車に乗り込みプラットホームを見ると前さん似のその子は俯いて立っていたそうです。
「ん?なんで電車に乗らないの?」とBが不思議に思っていると電車のドアが閉まりました。
するとプラットホームに俯いて立っていた前さんに似のその子が、顔を上げ、Bを見て「ニヤッ」と笑ったそうです。

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