その男の狙い

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

今日、電車での出来事。

目つきの悪い中年男が、おもむろに持っていた新聞(因みに産経)を開いたかと思うと、新聞の折込広告を座席に敷いて俺の隣に座ったんだ。
それから、新聞を読み始めたのだが、読んだページを何故か2つに破いて、座席のスペースに置いていくんだ。

次に、ジャージの懐から白い広告で丁寧に包まれた長方形(縦10cm×横40cm×幅1㎝くらい)の物体を取り出し、背もたれと男のケツの間に隙間に置いた。
重量もそれなりにありそうだ。

そして、男には更にもう一つの所持品があった。
半透明のビニール袋なんだが、これを床に置いていた。

俺は何と無しに透けて見える袋の中身を見た。
それは札束だった。
ゆうに1000万はあったと思う。

「おいおい無用心なやっちゃなー。ひったくられるで」とベタなことを思ってたのだが、何となくいやーな雰囲気を感じたので、係わり合いにならない様にすることに決めた。

男は突然立ち上がったかと思うと、俺の対面に移動した。
そして、俺の隣に座った時と同様に、順序良く広告を座席に敷き新聞紙を傍らに置いて座った。

気になるのはビニール袋だ。
それはまだ俺の隣に置いたままだった。

男は新聞を広げて読みふけっている。
ビニール袋の札束なんて忘れてしまったかのようだ。

俺は「こりゃ、停車中にダッシュして置き引きしたら余裕でパクれるな」と思ったが、根が小心者だし若くもあり、また捕まりたくもないので、なるべく札束のことを考えない様にして、俺の横にある窓から隣の車両の風景を眺める事に専念した。

俺は横目で男をチラチラ見ていたのだが、相変わらず男は新聞に夢中でこちらから顔は見えない。
だが、電車がトンネルに入り車内が暗くなった瞬間、突き刺すような視線を感じた。

男は窓ガラスを鏡代わりにして、新聞ではなく俺を睨んでいたのだ。
男と窓ガラスを透して目が合った。
俺はこんなにも殺意に満ちた目を見た事がない。
俺はすぐに窓から目をそらして男を直視した。

男は例の包装された長方形の物体を背中越しに掴んでいた。
男が手に力をいれた為か包みが変形し、それに「柄」があることが解った。

柄の部分の逆の端を見ると微妙に鋭角だった。

もしかして、これって出刃包丁ちゃうん!?

俺はパニくった。
まだ男の視線を感じていた。

・・・そのまま1分程経過し電車が駅に着いた。
俺の目的地ではなかったが、ダッシュで下車し改札口方向に足早に向かった。
とりあえずホッとして後ろを振り向くと、ちょうど奴が降りてくる所だった。

俺を捕まえて殺す気だ!(そん時は本当にそう思った)

一目散に再度ダッシュ、そのまま駅を出た。
男はそれ以上は追ってこなかった様だ。(でも今にして冷静に考えれば、俺を追ってたんじゃなく単に「鈍行」に乗り換える為に降りた可能性が大)

あの男は一体なんだったのだろう。

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