愛嬌のないゴミ

カテゴリー「不思議体験」

知り合いの話。

一人で夏山に入り浸っていた時のこと。
ある夜、テントの外で「ヒャン、ヒャンッ」と動物の鳴き声がする。
チワワのような鳴き声だな。

そう思い顔を出したが、小犬の姿など見当たらない。

代わりにテントの前に鎮座していたのは、何の変哲もない小さな箱だった。
一辺が十センチくらいの、水色の小さな紙製の箱。

見つめていると箱は小さく飛び跳ね、「ヒャン」と鳴き声を上げた。

何だ何だ?

思わず駆けより、しっかと箱を捕えて蓋を開けてみる。

空っぽだった。
埃一つ入っていない。
微かにハッカの香りがした。

釈然としない彼は、蓋を閉め直してもう一度放置してみた。

しばらくすると、小箱は再び「ヒャンッ」と飛び跳ね出した。
確認したがやはり何も入っていない。
蓋をせずに放置すると、今度はいつまで経ってもウンともスンとも言わない。
蓋を戻すと、また不定期に鳴き始める。

何とも面妖な。
しかし明日も早い。
いつまでも相手をしていられないので、放ったらかして寝ることにした。
剛胆にも子犬のような吠え声を枕に、彼は寝入ったのだそうだ。

それから四日ほど山に籠もっていたのだが、夜になると小箱がついてくる。
喧しいと言えば喧しいが、気にならないと言えば気にならない。
最終日、何となく愛着が湧いた彼は、箱を家に持って帰ることにした。

ベッドサイドに置かれた箱は、昼は決して吠えなかった。
夜になると時折控えめに「ヒャン」と吠えていたという。

食費もかからないし、散歩も必要ない。
ただ愛嬌がないし、こちらに反応する訳でもないから、ペットにゃ不向き。
というのが彼の評価だった。

残念ながらその箱は、しばらくして事情を知らない母親にゴミとして捨てられてしまったらしい。
誰かに拾われていりゃぁ良いけどなぁ。

でも吠えるゴミなんて、やっぱり誰も手を出さないかもなぁ。
彼はそう言って苦笑していた。

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