女の中で果て死ぬ

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

何で読んだのかわからないが、恐ろしい昔話。

江戸時代の三大飢饉の中で最も甚大な被害を出したのは天明の大飢饉であった。
被害者の数は推定で100万人近くになると言われ、中でも東北の被害は甚大であり、東北だけで数万人近い餓死者を出したと伝えられている。

南部藩のある村に、美しい女がいた。
この女は美貌だけでなく、非常に股の緩い女で、頼まれれば嫌な顔ひとつすることなく誰とでも寝る、奔放な女であったという。

天明の大飢饉が南部藩を襲ったとき、人々は極限の飢えに苦しんだ。
子供や年寄りの口減らしから始まり、それもできなくなると先に逝った親子供の死肉を齧ったというが、それでも大半は命を繋ぐことができずに皆死んでいった。

男たちは考える。
『そうだ、どうせ死ぬなら最期にいい思いをして死にたい・・・・・・』
それはほとんど本能的な行動だった。

信じがたい話だが、その村の男たちはガリガリに痩せこけた体を引きずってその女の家までやってきて、女との同衾を望んだのだという。

不思議なことだが、この大飢饉の最中にあっても女はちょっともやつれておらず、それどころかその豊満な体から放つ色香は通常の時よりも色濃さを増しており、いささか凄みを覚えるほどになっていたという。

その女は男たちを誰一人として拒まず、体を開いた。
必死になって得られるだけの快感を貪る中、男たちは何ゆえのものか、涙を流したという。
そして、女の中で果てるのと同時に命を使い果たし、皆事が終わるのと同時に死んでいったそうである。

男が文字通り果てると、女は着物を着ると言うこともなく、そのままの格好で包丁を取り出すや、男の亡骸を切り刻み始めるのだった。
そう、女は男たちと交わる代わりにその死肉を食らってこの大飢饉を生き延びていたのである。

女の家はあっという間に男たちのしゃれこうべで埋まった。
それでも、最期に女との同衾を望む男は後を絶たなかったという。

数年後、大飢饉が終わり人々が少しずつ飢えなくてよくなるようになったとき、女はなぜか少しも歳を取らず、また、その美貌も、全身から放つ色香も、以前とは比べ物にならないほど、濃く、妖しくなっていたという。

この女が最終的にどうなったのかわからぬが、人々は噂したという。
「あぁ、あの娘は生きながら鬼になったのだ」と。

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