昔、北海道の山奥のライダーハウスでえらい目に遭った話。
そこはライダーハウスって言っても山の中に廃列車が置いてあって、勝手に泊まってオッケーな場所。
その日は俺ともう一人おっさんが寝泊まりしてたんだ。
で、おっさんと2人で廃列車に寝てたら叫び声やガタガタ壁を叩く音がした気がした。
でも俺はライダーハウス生活に慣れてて多少うるさくても気にならなかったし、イビキがうるさい奴や寝言言う奴、歯ぎしりが酷い奴と同じ部屋で寝ることも多いかった。
そのときもおっさんの寝相が悪いんだろぐらいにしか思わなかった。
朝起きてビビった。
外に出た瞬間、列車の周り一面が血の海。
列車の扉の下にちぎれた腕みたいなもんが見えたけど頭ん中真っ白になってて、後ろからおっさんに引っ張られるまで足が動かなかった。
それからおっさんが俺を落ち着かせてくれて、携帯が圏外だからバイクで警察呼びに行くって話になった。
でも俺はまだ足が震えててまともにバイクに乗れる状態じゃなかった。
頼むから置いてかないでって言ったら後ろに乗せてくれた。
このときのおっさん本当に心強かった。
近くの民家で電話借りて警察を待った後、俺とおっさんはパトカーで現場に引き返した。
千切れた腕やら血溜まりやらを見て警官もかなりビビってたが、すぐに応援やら鑑識やらヘリがとんできて慌ただしくなった。
犯人はヒグマだそうだ。
被害者は夜になってから泊まりにきたライダーらしく、近くに俺のでもおっさんのでもないバイクが止めてあった。
事情聴取のためパトカーで移動してるとき、おっさんがポツリと「こればっかりはどうにもならねぇもんなぁ。仕方ねぇ、仕方なかったんだ」と言った。
昨夜の叫び声はあの腕の持ち主の断末魔だったんだろうか。
しかし、あの時俺が起きたとして助ける事が出来たんだろうか。
仕方がなかったのかもしれない。
そう考えていたとき、助手席に乗ってた警官が言った。
警官:「あんたら運がよかったな。鍵の付いてない扉一枚でよく襲われなかった」
俺はぞっとした。