これは10年ぐらい前の出来事だ。
ある日の夜22時頃俺のガラケーが何度もけたたましく鳴った。
iコンシェルの電車の遅延情報だった。
『小田急線○○駅?○○○駅間で人身事故発生の為運転を見合わせています』
「またかよ」
俺の家の最寄り駅と隣の駅の間には自殺の名所がある。
急行電車がフル加速する場所だし、緩いカーブになっていて運転士からは見えづらくてブレーキを掛けるのも遅くなってすんなり死ねるからこの場所選ぶという話を聞いた事がある。
近所のおじさんもここで電車に飛び込んで自殺したしね。
目が覚めると2時半だった。
「やっべぇ!延着しちまう!」
当時俺は自分でトラックを持って仕事をしていた。
急いで作業着に着替えて家を出て家から徒歩5分程の月極め駐車場に停めてあるトラックへと急いだ。
家の前の長い下り坂を下っていくと自分と同世代の男性とその母親と思われる初老の女性が神社がある曲がり角から出てきてこちらに向かって歩いてきた。
そしてすれ違う時にその母親は俺に軽く会釈した。
『んっ?この人誰だろう?知ってる人かな?』と思いつつ俺も会釈した。
『あれ?あの男の人、知ってるような・・・誰だっけ?』なんて考えながら歩いている内にふと思い出した。
『あれは後藤君だ!』
後藤君は俺の2個上でうちの姉ちゃんと同じクラスだった。
公文でも一緒で小学生の頃よく近所の神社で一緒に遊んだ人だった。
後藤君の頬っぺたには直径3cm位の大きなホクロがある。
さっき擦れ違った男性の頬っぺたにも大きなホクロがあったし、わずかに残る面影的にも後藤君に間違いない。
俺は『後藤君元気にしてるんだなぁ』とホッコリした気分でトラックに乗り込み仕事に向かった。
車の中で朝6時頃かな?
地元FM局のラジオを聞いていると『昨夜10時頃小田急線○○駅と○○○駅の間で飛び込み自殺があり、男女2名の遺体が発見されたそうです。男女2名ってどういうことなんでしょうねぇ』と人気DJである栗○氏が伝えていた。
『ふぅ?ん変なの』
俺はその程度しか思わなかった。
1週間後。
仕事から帰ってくると姉ちゃんが家に帰ってきていた。
俺が後藤君に会った事を伝えようとすると姉ちゃんの方から「ねぇ、寺田って覚えてる?」と聞いてきた。
「あぁ、こないだすぐそこで会ったよ」と返すと「寺田、自殺したってよ!」と。
俺:「えっ?」
姉:「お母さんと一緒に小田急線に飛び込んだんだって。1週間前ぐらいにニュースになってたでしょ?男女2人で飛び込んだやつ」
姉ちゃんの話によると、お兄さんは結婚して既に家を出ていて、実家に残っていた後藤君が身体が弱いお母さんの介護をしていたのだそうだ。
その介護を苦に二人で自殺する事を選んだのだという。