その男は悪意に満ちていた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

棚田の多い山奥の邑で、ある朝騒動が持ち上がった。
邑の外から来たらしい様子の男を、何人かの邑人が取り囲んで責め立てている。

彼が騒ぎを聞きつけた時には、既にかなりの人集りができていた。
何事か?と見ていると、男はどうやら手中の何かを守ろうとしているようだ。
邑人がそれを奪おうとすると、大声を出して威嚇している。

いきなり、男は殴り倒された。
馬乗りになった邑人たちが小袋を取り上げ、中を確認して怒声を上げた。

サッと取り囲んだ空気が変わるのがわかる。
集まった人々が皆、ひどく腹を立てている印象を受けた。

今にも死刑が始まりそうな雰囲気に彼が困惑していると、顔見知りが忠告してくれた。

顔見知り:「関わるな。彼奴ら、殺されても仕方のないことをやろうとしてたんだ。毒虫をこの邑に持ち込んで、放そうとしていやがった」

知り合い:「毒虫というのが、あの手の中にあった袋の中身ですか。一体何なのですか?」

その彼の質問に、邑人はこう答えた。

邑人:「虫を殺す薬草群に、ワザと番の虫を入れてから、乾燥させるんだ。大抵の場合、虫は普通に死んでしまうんだが、希に最後まで生き残る番がいる。この二匹を取り出して、数手間加えてから野に放つと、一年後にその地は大凶作になる。どんな薬でも死なない害虫が大繁殖して、文字通り何でも食い尽くすんだ。この番の虫が毒虫。邑によっちゃ飢饉虫とも呼ぶってよ」

知り合い:「殺虫剤が効かなくなった蠅の話を聞いたことがあります。ある殺虫剤に抵抗力のある成虫同士が子孫を残すと、その血統はもうその殺虫剤では死なないという話でした。毒虫とはそれと同じ原理で創られた虫なのかもしれませんね」

そう彼は解説してくれた。

しかし、わざと飢饉を起こしてどうしようというのか。
疑問に思ったので知り合いにそれを問うてみた。

知り合い:「いやなに彼奴ら、その毒虫を殺すための術もちゃんと持ってやがるのさ。飢饉の恐怖を創り出して、高い金を取ってそれを追い払う。要するに奴ら、飢饉をコントロールして金儲けをしてるんだ」

毒虫の入った小袋は踏み潰され、男はボコボコに殴られて何処かへ連れて行かれた。
流石に後をつけるような真似はできなかったという。

ブログランキング参加中!

鵺速では、以下のブログランキングに参加しています。

当サイトを気に入って頂けたり、体験談を読んでビビった時にポチってもらえるとサイト更新の励みになります!