僕が幼かった頃の過ち・・・

当時の僕は祖父が苦手だった。

ゲームしたり絵を描いたりして遊んでいると、いつも近くに寄ってきて「何してんだ?」と威圧的な声で話しかけてきたからだ。
祖父は「男は外で遊ぶものだ」と信じている人だった。

ある夏の日のこと。
その日は家に友達を呼んで誕生日に買ってもらったゲームをしていた。
当時の新作だったゲームソフトには、友達の少ない僕でも5、6人のクラスメイトを呼べる力があった。
普段はおとなしかった僕だが、その日ばかりは興奮してかなりはしゃいでいた。

しかし、暑い夏の盛りに男子が家の中にこもりっきりでゲームをしているのが祖父の癇に障ったらしい。

何度も部屋に顔を出しては「外で遊べ」と小言を重ねた。

友人に囲まれている僕は気が大きくなっていたために、ついに「うるさいなぁ」と普段はしない口答えをしてしまった。
それがいけなかった。
祖父はその言葉を聞くとゲームを目の前で叩き壊してしまった。

僕はその日以来学校でいじめられるようになった。
僕は祖父が大嫌いになった。

それからしばらくの時間が経ち、冬休みに入った。

年が明けたある寒い日の夜。
食事が終わって席を立った祖父が突然倒れた。

なんの前触れも無くやってきた突然の事件に僕は驚きあわてた。

その日は僕と母しかいなかったため、急いで母が救急車を呼ぶ電話をかけにいった。
廊下から母の緊張した声が聞こえるなか、祖父は苦しそうにうめき声を上げていた。
電話を終えた母は救急車が来るからと祖父を僕に任せ、外へ出て待っていた。

僕は苦しむ祖父と二人きりになった。

祖父は意識が朦朧としているようで、焦点がハッキリしなかった。
何か喋っているがうまく聞き取れず何度か聞き返したが結局わからなかった。
呼吸も苦しそうにゼィゼィと音を立てて、手は胸をかきむしるような動きをしていた。
普段は家で威張っている祖父がこんなに弱っているのを見ていると、なんだか不思議な気持ちが沸いてきた。

今、こいつの首を絞めたら誰にも知られずに殺せる。

なんとも不思議だった。
あれだけ威圧的で強かった祖父が、自分の目の前で涎をたらし苦しんでいる。
絶対的強者の命が自分の手の中にあることが僕に奇妙な興奮をもたらした。

ゆっくりと祖父の首に手をかけると、祖父は釣られた魚のように激しく暴れだした。

僕は驚き、思わず手を引っ込めた。
しかし、驚きと同時に燃え上がる闘争心のような、目の前の獲物を必ず仕留めなければならないという使命感とさえ思える強い殺意が僕の心に芽生えた。
今度は馬乗りになり、暴れられないようにして祖父の口を押さえた。

祖父は意識が無いのか、目がぐるぐると回るように色々な方向を見ていたが、僕はそのまま体重をかけて口を両手で押さえ、苦しそうな祖父の様子を見ていた。

突然祖父の目が僕の目を捉えた。
弱者となった彼の瞳には恐怖と怒りが見て取れた。
その目を見て、僕は彼がこのまま生き延びてはまずいことを悟った。

焦りが生まれた。

救急車がつけば当然すぐに母が戻ってくるだろう。
ひょっとしたら今すぐ様子を見に戻ってくるかもしれない。

祖父の目に見つめられた僕は突然冷静に状況を判断し始めた。
そして、何よりこいつが生き延びれば僕が殺そうとしたことがばれてしまう。

見つかるかもしれないという恐怖は僕の手により一層力を込めさせた。
祖父は抵抗するほどの力が残っていないようだったが、その目は僕から離されることは無かった。

しかし、いくら力を込めてみても祖父は一向に事切れる様子を見せない。

当然だった。
僕は自分が祖父の口しか押さえていないことに気づいていなかった。
気づいたのは彼の鼻から苦しそうな呼吸音が聞こえてきた時だった。

祖父が暴れないように体重をかけたまま、抵抗されないように慎重に彼の鼻を左手でつまんだ。

苦しそうに顔を歪め、祖父は辛うじて自由になっている左手で僕の胸ぐらを掴んだ。

その瞬間に意識がなくなったのだろうか。
祖父の体から力が抜け僕は思わずバランスを崩しそうになった。

また意識が戻るかもしれない。
母が戻ってくるかもしれない。
二つの不安を抱えた僕はしかし、罪悪感を感じることは無かった。

祖父の体が小さく痙攣していた。

遠くから救急車のサイレンが聞こえてきたときにはもう僕は祖父の体から降りていた。
母が救急隊員を連れて部屋に入ってきた時、いったい彼らの目に僕はどう映っていたのだろう。
僕は恐怖と歓喜と不安と安堵をごちゃ混ぜにしたような感情の波に捕らわれていた。

その後のことはよく覚えていない。

ただ、葬式のときに泣き崩れる母を見て後悔とも憐憫とも言えない
奇妙な気持ちになったことだけはなぜかはっきりと覚えている。

今でもあの日のことを思い出すと淡い奇妙な興奮を感じる。
あのことを後悔したことは無い。

しかし、今日みたいな寒い日には思い出と同時に胸ぐらを掴まれた感触が冷たく蘇る。

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