友人と一緒にカエル捕りに行き、俺達は狭い踏み切りで足止めされてあのカンカン言う音を聞いていた。
友人はとにかくバイトをいくつもいくつも掛け持ちしていて、パン工場や印刷工場、洗濯工場に清掃と、その時々で時給や日給の一番良い物を厳選していたのだけど、それだけでなくて普通の学生らしい読書感想文書いて500円とか、宿題のコピー300円とかそんなのもしてた。
その中のひとつがカエル捕りで、知り合いの金持ちがアロワナかなんかを飼っていて、餌のカエルを持っていくと気前の良い時は5000円くらいくれるんだそうだ。
その日は工場のバイトをした後に田んぼでカエルを獲っていかなきゃならないというので、その後に何だったか友人との約束を控えてた俺は先にその田んぼで友人の代わりにカエルを獲っておく事にした。
意外にもカエルは簡単に獲れて、畦道で一服しながら友人を待っていると、踏み切りの向こうに女の子の頭がチラチラと見えた。
田んぼの畦道から線路まではちょっとした丘になっていて、自動車一台がギリギリ通れる程の畦道がそのまま線路を乗り越えるように住宅街へと続いている。
俺の立ち位置からでは女の子の頭しか見えなかったが、何だかずいぶん楽しそうな笑い声と揺れる髪の毛だけが伺える。
そのうちに友人が合流し、二人で線路に向かって歩き始めた。
友人は片手に自転車、片手にカエルの入った袋を持って、踏み切りに続く短い急な坂を上がった。
丁度俺達が坂を上がりきるのと同時くらいに踏み切りの音がカンカンと電車の通過を告げ出した。
多分友人が自転車を引いて無かったら走って渡りきるようなタイミングだった。
この辺は結構長く踏み切りが閉まるし、貨物列車やら普通の列車も車両が長くて待たされるから。
それにしばらく待ったが遮断機は一向に下りて来なかった。
不思議に思った俺が何故か上を見上げ、視線を戻すと線路の向こうにさっきの女の子が見えた。
ふんわりとした長い髪の毛を耳の上辺りで結わえてるらしく、その子がキョロキョロするたびにふわふわした白いリボンかレースみたいなものが揺れていて、それがさっきの女の子の頭にも付いていたからきっとその子なんだと思う。
女の子は小学校の高学年くらいで、余所行きって感じのピンクに白い小さな水玉模様が付いたワンピースを着てた。
今風のふりふりしたやつじゃなくて、もう少し品のある白い丸襟が付いていて、最近アニメか何かで似た服を見て思い出したばっかりだった。
女の子は両腕に何か人形のような物を大事そうに抱えてて、俺と目が合うとにっこり笑った。
それがはにかむみたいな物凄く可愛い笑い方で、俺がロリコンだったら惚れてたと思う。
瞬間、友人の自転車がガタンと倒れる音がした。
倒れて、そのまま田んぼの中に自転車が落ちた。
カエルの袋も友人が田んぼに放り投げ、俺の後ろから左腕を掴んで後ろへ引いた。
俺はバランスを崩して尻餅を付き、友人はその俺と一緒に地面に座り込んで俺の左腕に抱きついてきた。
その瞬間に目の前を、本当に目のまん前を貨物列車が通り過ぎていく。
顔の皮がブルブルして痛いくらいに近い所で、警笛なのか、耳障りなキュイーッというか、ピイィーというか、そんな音が突き刺さってくるように近くで聞こえた。
貨物列車が通り抜けた後も、カンカンと警音が鳴り続けてる。
妙に心拍数が早くて息が苦しい。
女の子が線路の上を此方に向かって近づいてくる。
大事そうに何かを抱えて、小走りに駆けて来る彼女のスカートの裾と子供特有の細い髪の毛がふわふわしていた。
そこへ客車が音も無く滑り込んできて、女の子の身体が電車に持っていかれた。
電車は少しも速度を落とさず、俺はドシャッ、というか、ベシャッというか、何とも表現できない音を聞き、唖然と口を開けていた。
綺麗なピンク色と赤いものと、何か白っぽいものと、黒っぽいものと、それから女の子が抱えてたらしいものが空に向かってぽーんとすっぽ抜けたように飛んでいき、そのまま見えなくなった。
肘から先の、大人の手だった。
ほっぺたにびしゃ、と鳥のふんを食らったような感覚があって、後はもう一度尻餅を付いた。
友人が俺の名前を呼んでる声が遠くで聞こえて、右耳の側で「いじわる」と怒ったような女の子の声が聞こえた。
その日の予定が何だったかは覚えていないが、とにかく俺はしばらくそこに座り込んでいて、気付くとその横で友人がカエルを獲っていた。
カエルをまた袋一杯に獲ると、友人は自転車を引き上げて、俺を家まで送ってくれた。
怖いから一緒に居てくれと頼んだが、カエルを届けに行かなければいけないので、酒飲んで寝ろと言われた俺は、その通りにした。