その話を聞いて血の匂いを感じた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

短期間だが、地方の雑誌社でバイトしてた時の話だ。

仕事はお茶くみから掃除に買い物。
いわゆる雑用でいいように使われてた。

その日は珍しく取材のアシスタントとして同行する事になった。
デジカメ、ICレコーダー、ビデオカメラ。
言われるがままカバンに詰め込み助手席に乗り込んだ。

当時の俺はペーパードライバーだったから運転はしなくてすんだ。
地方都市から取材先までは遠かった。
目的地に着いたのは昼も随分すぎたところだ。
かばんを持ち後につづいた。

先方に挨拶をし、自宅に上がらせてもらった。
取材の相手は、職業が「マタギ」。
いわゆる猟師だそうだ。
許可を得て鉄砲を所持し、生活の糧とする。

自然の恵みの恩恵で暮らし、山からは動物や山菜を頂き、川からは魚や水を恵んでもらう。
こう書くと柔らかく感じるが、自然と向き合って生きていくには困難な事も多いらしい。

すっかり日が落ち、取材も終わったのでお礼を言って帰ろうとすると、晩御飯でもと誘われた。
早く帰りたかったが判断するのは俺ではない。
他では聞けない面白い話しを聞かせてあげるからと言われる。
隣を見ると満面の笑みを浮かべ、ありがとうございますと言った。
俺も真似をした。
食事が終わると語り始めた。

山も川も縄張りがあってな、普通の人はいいんだが、俺らみたいなモンは決められとる。
それを荒らすモンもおる。
そんなモンらを懲らしめる為にな、おまじないを使うんじゃ。
それはな、「鬼熊」って言ってな自分らで作るんじゃ。
親子でおる熊を見つけたら、母熊を撃つんじゃ。
ただし絶対に殺さん。
瀕死の所で四肢を切るんじゃ。

ワイヤーで首をくくり木と繋げる。
子熊は離れんから、そのまま放っとく。
熊は強いからそんなんじゃ死なん。
頃合いを見て、母熊の目の前で子熊をなぶり殺す。
子熊の首を斬り落とし皿の上に乗せ母熊の前に置く。
死ぬまで。

母熊が死んだら首を落し、子熊の首をどかし皿に乗せる。
それを自分の山の守り神さんの所に持っていきお供えする。
子熊の首は懲らしめたいモンの山に棄てる。

相手は酷い目に合う。
この辺では今もやっとるんじゃ。

気のせいか、血の匂いを感じた。
とにかく、取材と晩御飯のお礼を言いその家をあとにした。
帰りは、2人とも無言だった。

異文化というより異次元に触れたように、ライトが照らす闇の先を眺めていた。

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